一年伝説




丁度四年前。

俺は中学校へと歩みを進めた。

中学へ入り、楽しいコトをいっぱいやろう!と思っていたのもつかの間、

小学時代に親しんでいた友達がほとんど違う中学へ行ってしまったのだ。

その頃はまだ何も知らず、俺は一人ニタニタ笑いながら春休みを過ごしていた。

始業式当日。

俺の行く学校に行けど、周りは俺の知らないヤツ等ばかりだった。

何故アイツがいないのか、どうしてあのバカがいないのか、

ただただ疑問に思うだけだった。

授業が始まっても、話す相手はいない。

俺はポツンと座っていて、受けたくも無い授業を一人で静かに聞いていた。




とても寂しかった。とてもツラかった。




家に帰って友達に電話しても、都合が合わず結局遊べず。

いつしか俺の頬には一つの雫が伝わっていた






そんな孤独な中学校も、夏休みを迎えた。

特に何をするでもなく、一人テレビゲームに没頭したり、

たまにかかってくる電話に満面の笑顔で応答したり、

けれど、それらは全て虚しさを募らせるだけだった。

夏休みはあっという間に終わり、学校は二学期を迎えてしまった。

正直、俺はまだ誰一人として友達が出来ていない。

他のヤツらが楽しげに会話しているのを見ると、何だか寂しげで、

無常にも怒りが込み上げてくる。

こんなコトなら、いっそ死んでしまおうか・・・?

この時期によく俺は自殺を考えた。

誰とも話せない、誰とも触れ合えない、誰とも何もしない。

俺の心は闇に沈んでいたままだった。






二学期が始まってすぐに、俺のクラスに転校生がやってきた。

そいつは俺以上に無口で、俺以上に無愛想だった。

学校にも一週間にニ,三回来る程度で、ある種の引き篭もりだったのだ。

変なヤツだなぁ・・・と思ってるウチにも、俺の中の時間は容赦なく過ぎ去っていった。




ある日の放課後、学校で委員会をやっていると、どうやらその転校生も俺と同じ

委員会を選んだらしく、俺とそいつは同じ席についた。

話すコトも依然と無く、ダラダラと時が経っていった。

先生が黒板に書いたコトをメモしようと、隣のヤツから鉛筆を借りると、

それはいつぞやか流行った「バトル鉛筆」というヤツで、

その鉛筆を振ると「ダメージ20」とか、そんなコトを繰り返して遊んでくゲームで、

俺は何となくソレを振って遊んでいた。

すると面白いメッセージが出てきて、それには

「テレポ失敗」

と書かれていた。

どうやらファイナルファンタジーかなんかのバトル鉛筆なのであろう。

俺が一人でニヤけていると、その転校生も笑い出して

「それ面白いナァ」

と言ってきて、俺ら二人はついバトル鉛筆に夢中になってしまった。

振れども振れども「テレポ失敗」のメッセージに、俺らは爆笑の渦を巻いていた。

中学校に入ってから、初めて爆笑したのかもしれない。

俺はそいつに心を開き、その日を境にそいつだけと二人で話を進めていた。






学校に来ればアイツが居る。

それだけが嬉しくて、俺はいつも家を飛び出していた。

授業を受けるのも一緒。体育で走り回るのも一緒。

学校が終わった放課後、一緒にどっかしら行って無茶するのも一緒。

本当にそれだけが楽しかった。

何をするにあたってもそいつと一緒。

そいつだけがいれば、何でも出来そうな気分がした。

そいつも毎日学校に来るようになり、俺は毎日が楽しかった。






ある日、俺が班の日記を100ページくらい字で埋めてしまい、

その内容がクラス全体に知れ渡り、一躍有名になったコトがあった。

本当はアイツが笑ってくれるのを楽しみに書いたものだったけど、

それはそれで嬉しかった。

それを知ったクラスの一人の肌黒いチビが

「コレおもしれぇ!マジおもしれぇ!」

と、腹を抱えて笑って

「もっと書いてくれ!」

と、何だかでしゃばったガキだなと思いつつ、その内容の続編を書きまくっていった。

それを書いていくごとに、次第にそのチビとも仲良くなり、

やがては俺とアイツと黒チビの三人で、常に行動を共にするようになった。

この三人は、クラスで一番飛びぬけていて、一番無茶で、一番ガキっぽかった

と、後ほど担任から有り難い言葉を頂戴した。






テレポ失敗から始まった俺のストーリー。

そんな中学校も冬休みを迎えた。

冬休みは夏休みと違ってすごく短くて、何だか休みなんだか休みじゃないんだか

わからない期間だった。

だけど、俺は冬休み中アイツと遊んでいて、孤独な夏休みなんかより

全然長く楽しく感じていた。

1/1。俺達は一緒に日の出を見よう!というコトで、

日が昇り始める6時くらいに、河原に集まるコトにした。

丁度5時頃、俺は寝ずにやっていたゲームを打ち切り、

着替えをすまして河原へと向かった。

アイツ等どうせ何も持って来ないんだろうなぁとか思って、

三人分の温かい飲み物と食べ物を買って、河原へと急いだ。



だが。



いつも集まる場所には誰も居なかった。

まぁ6時まであと10分くらいあるし、そのうち来るだろう、と思い

一人川岸でわずかな月の明かりを頼りに雑誌を広げて眺めていた。



6時を半刻ほど回った。

この場に居るのは俺一人だけだ。

もう日も昇り始めて、橋の上に人がたかってきていた。

俺は寒さに耐え、あの二人を信じ一人待っていた。




待っていた、ずっと待っていた。




7時になった。

相変わらず俺はで寒さに震えている。勿論一人で。

何で来ねぇんだろうなぁ・・・何で俺は一人なんだろうなぁ・・・。

その思いが募る度に込み上げてくる怒りと憎しみ。

約束を一度も破ったコトの無いアイツ、どうして居ないんだろう。

すげぇ憎らしいけど誰より素直な黒チビ、なんで来ないんだろう。

ガタガタと寒さで震えながら、俺は川に向かっては石を投げていた。

もう日が昇る・・・。

俺はアイツ達と見ない日の出は日の出じゃねぇと思って、

静かに川岸から去っていった。






家に着いた俺は、寒さのあまりすぐにストーブを入れ、

布団に潜り込んだ。

もしかしたら今頃河原に来ているかもしれない・・・。

そう思うと不安で、そう思うと泣きたくて、

俺はどうしたらいいのかわからなくなった。

そして、いつの間にか俺は眠りについていた。




あまりに光が眩しく、起き上がった。

時計は2時を差している。

昼を越えて、太陽は一層輝いている。

台所に行き遅い食事を済ませると、親からお年玉を頂戴し、

何に使うか一人で検討していた。

すると、

ピンポーン。

昼間っからチャイムが鳴り響くが、俺は金に夢中であっさりシカトした。

しかし、

「おい開けろよ!」

と、怒声と共にドアをガツガツ蹴る音がし、何だと思い玄関に向かってみた。

ドアを開けるとそこにはアイツと黒チビが二人でいた。

「何やってんだ・・?」

俺は半分呆れた顔で言った。

「いや、遊びに来た」

「お年玉もらったべ?どっか行こうぜ」

相変わらず要領の無な過ぎる会話にいつも通りの雰囲気を感じ、

パジャマのまま外に飛び出した。

その日は金もあるコトもあってか、ゲーセンに行ったり豪華なメシを食ったりと、

一年の初めとして最高のスタートをきった。

・・・後々話したコトだが、アイツ達朝の6時頃は二人揃って爆睡モードだったらしい。

でも、笑いながらのふざけた謝り具合に、何だかこっちの方がバカバカしくなって、

何事も無かったように時を過ごした。






冬休みが終わり、学校が始まった。

学校では相変わらず三人で無茶をして、笑いの耐えない日が続いた。




2月の中頃、一年生全員のスキー教室があった。

その三日前くらいに、俺達は些細なコトから始まったケンカで、

俺はアイツ達に

「テメェ等とは縁を切る!」

と言って、会っても無視し続け、昔の状態に陥ってしまった。




孤独な日々。

ホントなら今頃アイツ達と楽しくスキーでもしてたんだろう。

だが、俺は一人ゲームに明け暮れていた。

スキー旅行の前日意地で風邪を引き、無理矢理休んだのだ。

ゲームは面白い。

俺の思う通りに動くし、俺の思惑通りにコトが進む。

別に現実から逃げてるワケじゃない。

面白ければそれでいいんだ。

この時俺は、完全に自分を見失っていた。




学校が普通通りに始まったものの、俺は誰とも喋らず、

授業が終われば真っ先に教室を飛び出ていた。

俺ほど孤独が似合う人間はいるんだろうか。

と、この時はよく思っていた。

家に着いてもやるのはゲームばかり。

他のコトには目もくれず、朝方までやり込んでいた。

ある日、持ってるゲームをほとんどクリアしてしまったので手が空いてしまった。

それで、何となくいつもの河原に行ってみた。

河原に着くと、そういやココで焚き火したよなぁ、

ココで一人でバカみたいに何時間も泣いたっけ、

ココで深夜まで語り合ったっけ、などと回想にふけっていた。

だけどもうそんなコトは無いんだ。

俺は孤独。誰にも手を借りず、一人で適当に世を渡っていく。

もう何もかもどうでもいいと思っていた。




翌日。今日は俺の誕生日だ。

学校では勿論誰も祝ってくれないし、唯一祝ってくれるとしたら家族だけだろう。

そう思い、授業が終わっていつものように帰ろうとした。

すると、

「おい!」

聞き慣れた罵声の様な呼び声に、身体を振り向かせた。

「コレ!」

いつも学校で話相手になってくれたアイツ。

いつも放課後一緒に遊び回ってたアイツ。

そして俺達のやり過ぎな行動をいつもストップさせてくれる黒チビ。

二人が差し出してきた手には、1000円札が乗っている。

「・・・何だよ?」

「いや、お前今日誕生日だろ?だからやるよ!」

ちょっとハモり気味の声に一瞬笑いそうになったが、

誕生日を覚えててくれたコトに地味にすごい嬉しくて、

情けないコトに目頭が熱くなって、トイレ行くフリしてちょっと泣いていた俺。




その後アイツん家に行ってゲームやったりして、夜になってから

河原に行って三人で懐かしく語り合った。

「やっぱり身体は拒否ってても、心は素直なんだよな」

それが半月くらいかけて出した俺の心の答えらしい。






三学期もあと一週間で終わりを告げようとしていた。

そんなある日、俺達三人の中で、重大な事件が起きた。




昼休み。

珍しく学校をバックレとっとと家に帰ってしまったアイツ。

様子がおかしいと思い、俺と黒チビは話合っていた。

「どうしたんだ、アイツ?」

「さぁ。そういやお前知ってる?」

「何を?」

「アイツ転校するらしいよ」

「は、はぁ!?何言ってんのお前?」

「いや、だから転校するみたいなコトは言ってた」

「お前冗談ばっか言ってると舌抜くぞ?!」

「俺が冗談何か言ったコトあるかよ?」

黒チビを一蹴して、俺はアイツの家まで夢中で走っていた。




アイツの家に着くと、何やら嫌な感じの空気が漂ってきた。

しばらく様子を伺っていると、アイツが家から出てきた。

「よう、こんなトコロでナニしてんだ?」

「いや、俺のセリフだし。今日何で帰ったんだよ?」

「いや、ダルかったから。まぁ丁度いいや、遊び行こうぜ」

「・・・・」

別に転校するコトに何かある、ってワケでも無さそうに明るい。

ってか、いつもと全然変わらないぞ。

やっぱり黒チビのでまかせだったんだろうか。

「よし、今日は焚き火でもするか」

「・・そだな!」

転校するなんてありえない話だ。

俺達の仲は永遠で、離れるコトなんか無い。




その日の帰り際、思い出したかのように俺はアイツに言った。

「そういやお前、転校するってマジ?」

するとさっきまで笑っていた顔が一変して真顔になり、

「・・・腹減ったなー。焼き鳥でも食いに行こうぜ」

全く感情のこもっていない言葉が放たれた。

「おい」

「お前何食う?金無いだろ?おごってやるよ」

「いや、金あるからいいよ。それより・・・」

・・それより先は言葉が出なかった。

アイツはものすごい寂しそうな顔になり、何処か遠くを見つめていた。

「よっしゃ、焼き鳥食いに行くか!」

俺は全てを悟り、陽気にふるまった。

「うぉし!俺砂肝5個は食うぜ!」

「はー?砂肝は俺の分野だし。黒いのは黙ってねぎまでもしゃぶってろよ」

「何だとー!?」

と、三人皆笑いながら焼き鳥屋に行って、その後すぐに帰路についた。




やっぱりアイツは転校するんだ。

けど、俺達の前では寂しそうな顔も見せず、明るく見せていた。

最後まで笑い通して、俺達を心配させない為に・・・。

自分は強いんだぞって、自分は寂しくないんだぞって。

そうやって自分を作ってるアイツが、何だか可哀想だ・・・。

アイツだって別れたくないはずなのに、アイツだって泣きたいはずなのに、

どうしてそこまで必死に笑ってるんだよ・・。

ツライのはお互い様だろ。もうわかりきってるコトなんだろ。

何度も何度も俺は自分に言い聞かせた。

だけど、何度言っても悲しいだけだ。

なぁ、何で別れってこんなにツライんだろう・・?






終業式の三日くらい前。

俺達はアイツの転校のコトでもめ合いになった。

「どうして行っちゃうんだよ・・?」

「ウルセェ関係無ぇだろ」

俺の涙声も、アイツには通らない。

「くそがぁ・・・テメェなんて何処にでも行きやがれ!」

「・・・あぁ、行くさ」

「テメェ!」

俺はアイツと殴り合った。

そして俺は初めてアイツを殴った。

「ハァッハァッ・・・テメェは勝手だよ・・どうしていつもいきなり変なコト言い出すんだよ!」

「俺だってな・・好きで離れるんじゃねぇんだよ・・・!!」

「だったら離れなけりゃいいじゃねぇかよ!」

「親の都合だよ・・。俺は親の都合で大阪まで行かなきゃいけねぇんだよ!」

「・・・・・」

「いつもいつも親の都合で俺は・・・いつも・・・」

ちょっと前に、親の都合で大阪の方に転校するとかいう話は聞いたが、

あまりに急すぎて、あまりにも早すぎた。

「なぁ・・・?何で俺はいっつも親に振り回されなきゃいけねぇんだよ?なぁ!?」

「・・・・・」

「親なんていらねぇよ・・・親なんて消えちまえよ・・・」






終業式。

一年の終止符が打たれると思えば長かったもんだ。

通知表を受け取ると、アイツはすぐに帰路についてしまった。

俺は走ってアイツを追いかけた。

「おい!」

「・・・・」

「コレ・・・受け取れ!」

俺が渡したのはプレステで使うメモリーカード。

「こん中には、俺達の思い出が詰まってるからよ!」

「ああ・・・」

「じゃあな!生きてる限りまた会えるはずだから!大阪でくたばんなよ!」

「ああ!じゃあな!」

メモリーカードの中身は空っぽだった。

俺達の思い出は、メモリーカードなんかじゃ収まらない。

それに、アイツとはもっともっと思い出を作るんだしな。




俺は、また会える日に向かって生き続ける。

それがアイツから教わった生きがいだし、アイツと俺の望みでもあるし、

何より、俺達のメモリーカードはまだ全部埋まってないんだから・・・。




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