〜 Love is You 〜


「別れよっか?」

「うん…」

もうこの光景は何度目になるだろう。

俺が別れ話を持ち出そうとすると、必死に顔を真っ赤に染めて違う話題に転換する優菜。

その無邪気な姿は、いつでも、こんな時にでも愛おしく思えてしまう。

でも、ようやくピリオドを打てる。

「ゴメン」

「え、え、やだな、貴司君が謝らないでよ。全部、私が悪いんだから…」

優菜を見ていると、俺はこんな素敵な女の子の彼氏だったのか、

と、少しだけ優越感が出たりする。

「私がダメな子だから、貴司君、バイバイするんだもんね…」

「そんなコト無いよ」

「…やだよ、否定してくれないと、私嬉しくなっちゃうよ」

優菜は懸命に涙を流すまいと堪えている。

その表情は一見笑っているように見えるが、

俺にだけは、とても悲しそうに見えてしまう。

「優菜は、とっても良い子だよ。可愛いよ」

「だめだよ…そんなコト言っちゃだめだよ…」

優菜はゆっくりと涙を流す。

俺は俺で、一切表情を変えず、ただそれを見ているだけ。

いや、実際は変えられないという表現が正しい。

こんなに可愛くて、俺の事を笑顔で大好きって言ってくれる子を、俺は今フッてしまおうとしている。

何考えてんだよ、俺。

「貴司君…」

優菜は今すぐ抱きつきたいという表情で俺の名を呼ぶ。

でも、ここでそれに答えちゃダメなんだ。

俺は優菜と別れなきゃいけないんだ。

理由は単純、俺は最近ヤバイ仕事を請負ったからだ。

仕事っていっても、そんなに堅いモノでもない。

ただ、やるだけ。

それで金は一切入らない。

ボランティアもいいところだ。

「じゃあ俺、行くよ」

「うん…あ、貴司君!」

「なに?」

「また…いっぱいお話出来るよね!?」

優菜にそんな事言われたら、頷いちまうよ。

「…ゴメン」

俺はすぐさま振り返って、そのまま一人歩き出した。

振り返り際に一瞬優菜の顔が窺えたが、さっきとは別人のようだった。

ごめんな、優菜。

でも、コレをお前に話すワケにもいかないし、お前を巻き込みたくないんだ。

だから、別れてしまうのが手っ取り早い。

俺だって考えたんだよ?

何よりも大切な優菜と別れるだなんて、ちょっと前までは考えたコトも無かったくらいだ。

じゃあちょっと前からは考えたのかっていうと、そうでもない。

実際俺だって、自分が何をやってるかわからないんだ。

ただ、別れないとマズイと思った。

あんなコトを優菜に言いたくはないし、でも隠し事もしたくない。

どっちにしても危険にさらしてしまう結果が見えるんだから、俺は別れるコトにした。

でも、それでいいんだろうか?

なんであんなに大切だった優菜と別れなくちゃいけないんだ?

俺は公園の出口に着いたトコロで、歩みを止めた。

ふと振り返ってみると、優菜の姿は無かった。






「じゃあ、例の公園で待ってるぞ」

「あぁ」

プツッ

携帯を耳から離し、溜め息をつく。

俺、何やってんだろう?

優菜と別れてから、どうも覇気が無い。

いや、その問題じゃない。

そう、自分が自分でないような感覚。

そんな状態に俺はなっている。

優菜と別れてしまったのが一番大きいんだろうけど、

実際、色んなコトがありすぎて、そっちの方にも嫌気が差したに違いない。

「………」

俺は近くにあったベンチに腰掛ける。

空は既に暗くなり、月が光をのぞかせている。

そういえば、このベンチ、ここで別れたんだっけな。

あ、違う、向こうのベンチだ。

ちょうど今の位置から40mくらい離れた、向かい側のベンチ。

あそこで、俺は優菜と別れたんだ。

暗くてその場所はよく見えないが、なんとなくどういう形状だったのかくらいは覚えている。

なんせ、優菜の家はあのベンチから30mも離れていない場所にあり、

俺の家は、今俺が背中にしていて、これまた30mと離れていない場所にある。

そりゃ、イヤでも覚えるよ。

学校ではあまり顔を合わせないようにしているが、

どうも放課後なんかはここで鉢合わせする形になってしまいがちだ。

別に拒否ってるワケじゃないから、無理に時間をズラして会わないようするっていうのはイヤなんだ。

でも、顔を見てしまうのはもっとイヤだ。

あの楽しかった日々を思い出してしまうから。

ちっぽけな公園だけど、思い出がたくさん詰まっている。

色んな話をして、色んなコトをした。

…やめよう、悲しくなるだけだ。

「居たな」

不意に前方から誰かが俺を呼びかける。

「あぁ」

「お前がか?」

「そうだ」

俺はこんなヤツと会話なんてしたくない。

だから、最低限のコト以外は喋らないつもりだ。

「コイツを受け取れ」

全身を黒で覆い隠した男は、俺に小さな袋を渡してくる。

中には粉のようなモノが入ってるが、俺にはどうでもいい。

「コイツを明日この場所で待ってる奴に渡すんだ」

まるで棒読みのようなセリフを吐くと、男は出口に向かっていった。

「………」

何も感じない。

抵抗感というモノが湧いてこない。

俺は、いつの間にこんな腐った人間になってしまったんだ。

あの頃は違った。

ただ、落ち着ける空間が欲しくて、優菜を感じていたくて。

…でも、もうどうするコトも出来ない。

いや、どうするコトもないんだ。

何をしても、俺はもうダメなんだ。

今なら死んでも構わない。

何をしても何も感じなくなった俺なんて、もう要らないよ。

不意に、向かい側のベンチの黒い影が揺れた気がした。






「………」

「………」

最悪な状況だ。

まさか、またこんな感じになってしまうなんて。

「………」

「………」

俺の帰る時間と優菜の帰る時間が見事に重なってしまった。

いや、重なってしまったなんて次元じゃない。

ほぼ同時に校門を出て、ほぼ同じ歩幅で同じ道を進んでいる。

「………」

「………」

無言。

それは今じゃ当たり前なんだろうけど、俺には耐えられない。

ちょっと前までは、無言なんてありえなかったんだ。

二人で一緒に帰れば、常に話題がたえなかった。

つまらないコトでも、どんなに些細なコトでも、

ずっと笑いながら、ずっと楽しく過ごしてきたんだ。

それが今じゃ、どちらとも顔を合わせようともしない。

こんなに悲しいコトがあっていいのか。

「………」

「……?」

優菜の様子がちょっとおかしい。

いや、顔つきがおかしいんだ。

随分とやつれてしまって、覇気もクソも無い。

ひょっとして、何も食べてないのだろうか?

実際俺も、あの日以来マトモに食べ物が喉を通らない。

「………」

「………」

何か声をかけてやりたい。

大丈夫なのかと言ってやりたい。

でも、ダメなんだ。

もう俺はダメなんだ。

優菜は次第に崩れ落ちてゆく。

そして、俺も……。














目が覚めると、俺の横には優菜が座っていた。

「…あ、起きた?」

「ん……」

微かに温かい日差しを受けて、俺はダルそうに起き上がった。

「まだ寝ててもいいよ?」

「いや……」

「え?どうしたの?」

「夢を見てた」

「何の夢?」

「何故か麻薬の売人になる為に、優菜と別れる夢」

「えぇー!?貴司君ヒドイよぉー!」

ピチピチと俺の頬を叩く優菜。

「いいもん!どうせ私がダメな子だから、貴司君、バイバイするんだもんね!」

「あ、なんか夢と同じセリフ言ってる」

「もうー!貴司君イジワルだよっ!」

「あはは、ゴメンゴメン」

「でもでも、何でいきなりそんな夢を見るの?」

「さぁー…俺に言われてもね」

「正夢だったりしたらイヤだからねっ」

「まさか。ありえないよ」

「どうしてそう言い切れるの?」

優菜はぷくっと頬を膨らます。

…その仕草、その全てを…。

「愛してるから」

俺達は、永遠になれる…。




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