「やあ、後輩!」

これが先輩との始めての出会いだった。





僕は今、とある会社のサラリーマンをやっている。

どこにでもある普通の会社だ。

今は慣れ親しみ、当たり前のように自分の椅子に座る。

しかし、当たり前のようだが入社時にはとても緊張した。

僕はあまり新しい環境にすぐには適応できない性質だった。

そんな僕に、先輩はいきなり話しかけてきた。

「やあ、後輩!」

いきなりそんなことを言われて驚かない人間はいないだろう。

僕は呆気にとられ、何も言うことができなかった。

先輩は僕の応答を待たずに、嬉しそうに、

「お前は俺と同じ課だな。よろしく頼むぞ!」

こう言った。



解からないことは何でも聞け、そう先輩は言った。

その言葉に甘え、僕は先輩に色々なことを教えてもらった。

その都度先輩はちゃんと答えてくれる。

そう、先輩は面倒見の良い人だった。

また、仕事のことだけではなく、プライベートでもお世話になった。

食事所、洋服屋、本屋などのお勧めの場所。

先輩経由での友達も少なくはなかった。

先輩には世話になりっぱなしだ。



ある日、いつものように先輩は僕に話しかけてきた。

「やあ、後輩!」

いい加減この挨拶はどうかと思っていたが、

先輩はこのことには聞く耳を持たないので諦める。

いつもする様なくだらない雑談。

しかし、その日の僕は何か違和感を感じた。

その違和感は先輩からのものだった。

何かあったのか、そう尋ねると、

「今日な、夢を見たんだ」

そう先輩は答えた。

先輩は夢を見ない人だった。最後に見たのは子供の時だと言う。

そんな先輩が夢を見たらしい。

だからどうしたんだろう、と僕は思った。

それぐらいのことで先輩が大人しくなるのは変だと思った。

少し沈黙が包んだが、先輩はいきなりテンションを上げてしゃべりだした。

その夢の事にはそれ以降触れなかった。

今でも気になる。どんな夢だったのか。

どんな内容で、それを見た時どんな気持ちを抱いたのか。



翌日の昼過ぎ、先輩の死が警察から会社に届いた。

死因は車に撥ねられそうになった子供を助けた事による事故死。

ある人は「立派な死に方」

ある人は「なんと本末転倒な死に方なのだろうか」、と言った。

僕は何も言い返すことが出来なかった。

なぜならその知らせを受けた時、僕の思考は止まってしまったからだ。

その後の一日の記憶は無い。

どうやって過ごしたのか、記憶に無い。

ただ、「先輩が死んだ日」としか覚えていない。



その三日後、先輩の葬式が行われた。

皆が出席する中、僕は出席しなかった。

そこに行っても先輩が居る訳ではないし、

届くかどうか解からない祈りを捧げる事に疑問を感じたからだ。

僕はその日、先輩のことだけを考えていた。

初めて会った時のこと。

初めて一緒に仕事をした時のこと。

初めて本音で語り合った時のこと。

先輩、先輩、先輩。



先輩は後悔しなかったのだろうか。

子供を助ける代償として自分の命が無くなったことを。

子供を助ければ自分が死ぬ。

子供を助けなければ自分は死なない。

もし僕が先輩の立場だったら?

助けたのだろうか。

それとも助けなかったのだろうか。

答えは出ない。



葬式の二日後、一通の手紙が僕宛に届いた。

差出人は先輩から。

急いで封を切り、中身を見る。

その手紙は丁寧な字で、こう書いてあった。



やあ、後輩!

多分だが、この手紙が届く時には俺は死んでいるだろう。

虫の知らせかな?解かるんだ。

死の知らせ、お前にも解かる日が来るかな?

まあいいや、本題に入ろう。

お前は人生において後悔をしたことはいくつある?

過去を掘り起こせばいくらでもあるんじゃないか?

それら後悔を今この時を以って反省に変えろ。

後悔というものに価値は無い。

そんなものに耽るのは時間の無駄だ。

大切なのは自分で自分の行動を決め、

思い通りいかなかったら、何が悪かったのかを考え、次の糧にしろ。

失敗は成功よりも学ぶことが多い。

これが俺の伝えたかったことだ。

解かったか?

解からないなんて言うなよ?

俺はもうこの世にはいないんだから。

俺はな、いつからか忘れたが後悔はしない事にした。

その先に死が待っていても、自分で決めた以上な。

どんな死に方かは解からんが、後悔はしていないと思うぞ。

お前もするなよ。

どんな決断だろうがな。

これで俺の最後の講義もお終い。

じゃあな。



この手紙を読み終え、ようやく先輩の死が実感できた。

瞬間、涙が溢れ出す。

僕は大声を上げて泣いた。



思う。僕は先輩に助けてもらうばかりではないか、と。

だからこそ、その借りを返さなければならない。

現世ではもう無理だろう。

でも、来世なら。

僕の生まれ変わりが先輩の生まれ変わりに会うことがあれば。

来世で無理ならば次の来世で。

そして生まれ変わっても先輩は先輩なら。

僕は後輩であるならば。

僕から声を掛けよう。

「やあ、先輩!」、ってね。





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