ChristmasScars




「………」

目が覚めると、そこは見慣れた風景。

無駄に広い空間に、二人のヒト。

ぼんやりとした視界に飛び込んで来る色彩はいささか心地悪い。

しかし、ヤケに喉が渇いた状態が、ここは現実世界だと強調しているかのようだ。

「………」

誰も俺のコトなんて見ちゃいねぇ。

ただ顔を俯けて、口を閉ざしているだけ。

何でもいいから、誰か喋ったらどうだ。

余計に寂しくなるじゃねぇか。

「あ」

悠が目を見開いて俺を見る。

続いてキリンも俺を玩味する。

やっと目覚めやがったか、みたいな目はやめろ。

「大丈夫か?」

「もぉーすっごい心配したんだからねぇー!」

甲高い声を出すな。

頭に響くってんだ。

「飲み物、くれ」

俺の第一声。

と、それを待ってましたかのように、悠がペットボトルを手渡してくれる。

俺はそれを一気に飲み干す。

「確か前にもこんなコトあったよねぇ」

「そうだったか?」

「うん、たぶん一年くらい前だったと思うよ☆」

嬉しそうに言ってくれるな。

「あれ、三菱も知ってるんだっけ?」

「ワタシが看病しましたぁー!」

「そっか、悪い悪い」

「ぶぅー」

思えば、キリンと悠のやり取りってのは、見ていて常に新鮮な感じがする。

「あぁ、千佳ちゃんは帰ったぜ」

知ってるっての。

別にそんなコト考えてたんじゃねぇ。

「中々話せる子だったよ☆」

「アイツがナニモノだろうと俺はどうでもいい」

それより、疲れた。

目が覚めたばっかりだってのに、貫徹した後の様な疲労感で一杯だ。

「またまた、そんなつれないコト言うなよ」

キリンがニヤニヤしながら言ってくる。

別にナニもしてねぇってのに。

「そうだ」

俺はガバッと上体を起こす。

「どしたの?」

「夢を見たんだ」

「夢?」

悠が興味津々そうな表情で俺に寄ってくる。

「誰の夢?ワタシの夢?」

いっぺんくたばれ。

「言いたかねぇが、そこの長ったらしい神経してるヤツの夢だ」

いつの間にか惣菜パンにかぶりつきながら満面の笑みを浮かべてるキリンに向かって吐き捨てる様に言う。

「え?桐君の?」

悠はきょとんとしている。

が、すぐに元通りの顔になる。

「仲良しだもんねぇ〜夢くらい見るよねぇ」

「夢は操作出来ないからタチが悪ぃんだ」

俺がそう言うと、キリンがピクッと反応する。

「酷い皮肉だな」

いや、実際そうだろ。

「で、どんな内容だったの?」

「コイツと初めて会った時の」

「へぇ〜聞かせてよ!」

「コイツ、いきなり"お前は何の為に存在するんだ?"とか聞いてきやがったんだ」

忘れていたコトを思い出すのが夢ってもんだ。

「どういうコト?」

悠はハテナマークで頭を一杯にしながらキリンの方を向く。

「そんなコト言ったっけ?」

こういうヤツだ。

そのとぼけ能力で天下統一出来るんじゃねぇか?

「ふぅー」

俺はいつの間にかタバコを吸い始めていた。

汚い色をした煙が天井に向かって走り出す。

「どうでもいい」

投げやりに極論を弾き出すと、俺はまた寝転がった。

「じゃあじゃあ、ワタシと出会った時のコト、覚えてる?」

「知らん」

コイツと出会った時のコトなんて、想像したくもねぇよ。

「即答禁止だよー!」

「やかましい」

「それ、俺も知りたいんだけど」

長いヤツがでしゃばってくる。

「いや、覚えてねぇんだ」

「それ本当に言ってるの!?」

「素で」

「もっかい夢見れば思い出すんじゃねぇの?」

キリンがそう言うと、悠は出来るだけ硬い物質を探し求めて旅立った。

物騒なコトはやめろ。

「出会いねぇ」

俺には無縁的なモンだと思ってる。

別にコイツ等とも出会ったとは考えてねぇし、そんなキレイゴトみたいなコトを言うのはイヤだ。

「まぁ最初は誰かしら出会うモンだしよ」

キリンが俺のコトを見透かした様に言い放つ。

ここまで言い当てられると、本当に距離を置きたくなるくらいに気持ち悪い。

「同じ環境で育ったんだからよ、同じくポジティブにいこうぜ」

キリンは手を差し出してくる。

無論、俺はそれをただ眺めているだけ。

「どうした?」

「俺には必要無ぇよ」

「そう言うなって」

キリンは俺の手を強引に握り、上下に振り出す。

なんかこの展開、前にもあったような気がする。

「ただ漠然と生きてても、つまんねぇだけだぜ」

「そんなモンかね」

「昔みたいに、パァーッとナンパでもしてりゃいいんだよ」

俺は咄嗟にキリンの胸ぐらを掴む。

いや、俺の意思とは関係無く、掴んでいた。

「なんだよ?」

キリンは特に気にした様子も見せず、ごく自然な口ぶりで喋る。

「……別に」

ゆっくりと、しかし名残惜しそうに手を離す。

そうだよ、ここで殴ってちゃ、同じコトの繰り返しじゃねぇか。

「俺は不器用だからな」

「お前のコトは俺がよく知ってるからよ、気にしねぇよ」

キリンはそう言うと豪快に笑う。

俺はそれを恨めしそうに見ている。

そんな俺を見て、キリンは愉快に 「笑いたい時は笑えばいいだろ」

なんて言う。

まるでガキ扱いだ。

「………」

ここ最近、何だか自分の意思というモノがハッキリしない。

それはあの日が近づいているせいもある。

忌まわしき、俺という存在が出来上がった、あの日。

感情が不安定になって、次第に壊れていくんだ。

去年がそれのピークだった。

自分をコントロール出来なくなって、ただ、壊し続ける。

それが他人であろうと、関係無い。

最後には自分を壊し、全てを無にしてやろうって魂胆なんだ。

そう、自分で自分が何をやってるかってのは、もう理解出来てんだ。

それをやめなきゃいけないのに、それをやっていてはどうしようもないのに。

繰り返される苦悩と混乱の日々に、俺は慣れすぎてしまったのかもしれない。

負の精神のみが取り残され、けど、理性が消えてしまっているワケでもなくて。

「おい」

ふと気が付くと、キリンが哀れむように俺を見ている。

いや、キリンは別に哀れんじゃいねぇんだ。

俺がただそう思うだけ。

そう思ってしまうだけ。

どうして、こんな状態になってしまったんだ。

「タバコ、気をつけろよ」

自分の指に目線を向けると、フィルターギリギリのトコロまで火が迫っていた。

俺はそれを力なく床に擦り付ける。

惨めだ。

その光景もそうだが、俺が最も惨めでならない。

ヤバイな。

考え事が多くなるってのは、パワーを充電してるのと同じなんだ。

コイツが爆発するまでに、どうにかしてそれを抑えなきゃいけねぇのによ。

「おし、いくべ!」

と、急にキリンが立ち上がる。

「何処に?」

ガラガラ声が、俺の覇気の無さを示しているようだ。

「外に決まってんだろ」

「何しに?」

「遊びにだよ」

キリンは猛ダッシュで私服に着替える。

「早く着替えろよ」

「制服でいいじゃねぇか」

って、別に遊びたくねぇんだけど。

「何言ってんだ、私服は基本だろうが」

「何の基本だ」

「とにかく、早くしろよ」

キリンはそう言うと、一階へ駆け上がって行った。

俺の言うコトなんて聞きゃしねぇ。

「はぁ」

溜め息が妙に白っぽい。

いや、現に白い。

それを見た時、何だか急に寒気が襲ってきた。

「そりゃ、冬だからか」

つーか、暖房入れろよ。

「はぁ」

一通り着替えると同時に、キリンがズダダダダという轟音と共に俺の目の前に現れる。

「オッケー、じゃ行くぞ」

何処に、つってもどうせ言やしねぇだろうな。

外への扉を開くと、激しい寒風が身を襲う。

やってられるか。

「とりあえず、駅行くぞ」

俺が引き返そうとしたコトに気付いたのか、キリンは強引に腕を引っ張りやがる。

「はぁ」

さっきの溜め息よりも随分と白い。

しかしまぁ、たった一晩寝ただけなのに、こんなに気温は変わるモンなのかね。

と、そこで俺は重要なコトに気付く。

「何でこんな暗いんだ?」

「そりゃ、深夜の2時だからな」

「は?」

「だから、2時だよ」

「じゃあ俺は、半日くらいしか寝てねぇワケか?」

「必然的にそうなるな」

やかましい。

「寒いワケだ」

夜の方が寒いってのは猿でもゾウでもキリンでも知ってるコトだ。

知らなかったコトとは言え、そんなコトに気付かなかった俺は、やっぱりもうダメだ。

「つーか、悠は?」

旅立ったまま消息を絶ったっていうのならどうでもいい。

「先に駅に行ってると思う」

この野郎、いつの間にそんな工作を組みやがった。

「駅に何があるんだ?」

「さぁな」

見ろ、こういうヤツだ。

「さっさと行くぞ」

キリンはやや速めに歩き出した。




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