出会いと別れ第2章




圭がこの街を去って、もう一年が過ぎた。

誰も彼も、何も変わらないままだ。

勿論、俺も。



だけど、この1年間、ずっと思い続けていたことがある。

それは、俺は圭のことが好きだということ。

圭は今頃、何をしているのだろうか・・・。

ひょっとして、俺のことなど忘れてしまっているのだろうか。


・・ちょっと考えたくないな。


お互いの心が、一年経った今も、繋がりあっていてほしい。

少なくとも俺だけは、そういう気持ちでいっぱいだ。

圭は今・・・何を考えているのだろうか。









圭に会いたい・・・。




























7月もそろそろ終盤を迎える頃。

要するに、夏休みが近いってことだ。

俺達の学校の夏休みは、22日から始まる。

普通の学校は20日から、すなわち海の日から始まるらしいのだが・・。

何処で歯車が狂ったのだろうか。俺らの学校は。

校内では、美亜ちゃんがしきりに「夏休み」という語を叫んでいる。

よっぽど待ち遠しいのだろうか。夏休みが。

俺の去年の夏休みは最低だった。

連日宿題に追われて、連日夏風邪を引き起こしていた。

そして何より、圭がいなかった・・・。



昔の夏休みは、よく圭と遊んだものだ。

宿題もしないで、ずっと遊んでいた。

・・・まぁ、そのせいでよく先生にも怒られていたのだが。

今となっては、儚い想い出だ。

「暑い〜〜〜〜〜〜!!!」

美亜ちゃんが絶叫している。

その表情は、苦悶に満ちている。

「ねぇ、何とかならないの!?この暑さ!」

「・・・俺にはどうしようも出来んよ」

「ホント、役立たないねぇ〜」

無茶言うな。

神でも何でもない、ただの人間のこの俺が、いかにして気温を変えることが出来ようか。

「異常気象だぁ〜、死ぬ〜〜〜〜〜〜!!」

「毎年言ってるじゃないか、異常気象って」

「毎年異常だからよぉ〜!」

まぁ言われてみればそうだな。

「大体何なのこの暑さ!日本は赤道に面していないんだよっ?!」

面してるとか面してないとかの問題じゃないと思うのだが。

「それにしても暑いわ〜!何かこうまで暑いと、プールにでも入りたいね〜」

「そうだな」

「よぉし!プールに入りに行こう!」

相変わらず無茶なコトを言い始めるお嬢さん。

「入りに行こうって・・・もう授業始まるぞ?」

「いいのいいの、授業なんてシカトで。大体この暑さで授業なんて考えられないよ」

「確かに、一理あるな」

百理無いけど。

「でしょでしょ!?じゃ決定ね!」

「い、いや、俺は遠慮しておこう」

「何で?」

「何でって・・・授業は出なきゃまずいぞ」

「・・・・・」

美亜ちゃんは、ぽか〜んとして俺の方を見ている。

「わかった!わかったわ!!」

「そうか、なら真面目に勉強だ」

「圭ちゃんがいないから行かないって言うのね!」

「ほぇっ!?」

変な音を出す俺。

「そうだったわ・・・アナタは圭ちゃんの夫だったわ」

「違うって」

「私が誘ったら、不倫になっちゃうもんね」

「だから違うって」

「あぁ、ゴメンナサイ圭ちゃん。こんな私を許して・・・」

俺の話を聞く気は毛頭無いらしいな。

「とにかく、暑くても授業は受けるんだ」

「はぁい・・」

美亜ちゃんは、ふてくされ顔で自席に戻っていった。

「まったく・・・しょうがないヤツだ」

・・・・・・。

「ホントならここで、幸恵さんがクスッって笑うはずなのだが・・」

幸恵さんの影は無い。

何故なら彼女は、北海道に戻ってしまったからだ。

「・・俺が悪いのだろうか」































「・・・アナタのことが好きです」

「ありがとう・・・だけど俺は・・・」

「・・・やっぱり、圭さんですか」

「・・・!!」

「わかっていました・・・ダメで元々、告白してみたんです」

「・・・・・」

「やっぱり・・・ダメ、ですよね」

「・・・すまない」

「いいんです・・・私なんかじゃ、アナタの目には適わないって思ってましたから・・・」

「そんなことはない」

「えっ?」

「俺は幸恵さんのことは好きだ。決して嫌いなんかじゃないさ」

「・・・・・」

「だけど俺は・・・それ以上にアイツのことを思っているんだ」

「はい・・・」

「本当にすまない」

「いえ・・・アナタの人生を決めるのは、アナタなんですから」

「幸恵さん・・・」

「今後、私がアナタに関わることは無いと思いますが、私は見守っています。アナタの人生・・・ アナタの未来を」

「・・有難う」

「短い間でしたけど、楽しかったです」

幸恵さんの頬に、一筋の雫が伝う。

「あれ・・・?私、何で涙が出てるんだろう・・?」

「幸恵さん・・・」































「今後、私がアナタに関わることは無い、か・・・」

本当に短い間だった。

そんな短い間でも、幸恵さんは俺のことをわかってくれた。

俺としては嬉しいことこの上ないが・・。

やはり、心の何処かで何かが引っかかっている。

早く圭に会いたい。

いや、会わなくちゃならない。

そんな気がしてならない。














放課後。

今日で今学期の授業は終わりだ。

すなわち、明日が終業式ということだ。

「ねぇねぇ〜!」

美亜ちゃんが寄ってくる。

「何だ?」

「ちゃんと圭ちゃんと連絡取ってるの?」

何を言い出すかと思えば・・・。

「いや、連絡先がわからんのでな」

「はぁ〜、全然ダメだなぁ」

大きなお世話だ。

「ここは一つ、情報通の美亜ちゃんが、圭ちゃんの居場所を教えてあげようか?」

「ほぉ、言ってみてくれ」

正直なところ、本当に圭の正確な居場所が掴めていなかった。

知っていることはただ一つ。長崎の何処かにいるということだ。

「圭ちゃんはね、長崎の何処かにいるんだよ!」

「・・・それは知っている。もっと正確な位置とか知らないか?」

「そ、それは・・・」

「もしかしてネタ切れか?」

「う・・・・」

図星だったようだ。

「あ、そう言えば明日から夏休みだね!」

話題の切り替えが早いというか何と言うか。

「もう夏休みか・・・時が過ぎるのは早いものだな」

「予定とかあるの?」

「いや、特に無いが」

「ホントに!?じゃあさじゃあさ、42日間耐久プール大会と行こうか!」

どんな耐久大会だ。

「いや、俺は遠慮しておく」

「ちぇっ、つまんないの〜。これで26人目だよ、美亜の誘い断ったの」

そりゃ断りたくもなるさ。

「何にせよ、今年もつまらない夏休みになりそうだな・・」

「わかった!じゃあさ、42日間耐久スイカ割り大会・・・」

「出来ないって」

「ぶ〜」

「大体、42日間も使ったら、宿題が出来ないだろ」

「あ、知らないんだ知らないんだ!」

「な、何がだ?」

「今年の夏は、宿題が出ませ〜ん!!きゃはは〜!だから、耐久大会やろっ!」

「・・・ウソくさいな」

「ホントだってば!ほら!コレ見てよ!!」

美亜ちゃんが鞄から取り出したのは、一冊の冊子。

「夏休み・・・計画表・・・?」

「そ!コレの、6ページを見てみなよ」

「ふむ・・・」

指示の通りのページを開くと、何とそこには

“今年の夏休みの宿題は無し”

と書かれていた。

「本当・・・だな」

「でしょでしょ!?だからさぁ〜遊ぼうよ〜」

「そうだなぁ・・・せっかくの休みだし、遊ぶのも悪くないか」

・・・待てよ。

何故にこの冊子を美亜ちゃんは持っていたのだ?

一般に配布されていないはずの物を、どうして持っているのだ?

俺はすぐにその旨を伝える。

「え・・・あ・・・まぁいいじゃない!」

「全然よくないぞ」

まずはこの問題を解決せねばならんな。

「よし、これから俺の言う質問に答えろ」

「うん?」

「自作だろ?」

「ち、違うよ!自分で作ってなんかいないよ!美亜こんなの作れるワケがないじゃん!」

まぁ、言われてみればそうだが。

「あるいは、作らしたか?」

「作らしてもいないよ!あ・・・でも、私の意志で作ったんじゃないよなぁ・・」

引っかかる言葉だな。

「ま、今年の夏休みは宿題無しなんだから、気楽に行こうよ!」

「・・・わかったぞ」

「へ?」

「夜の学校に侵入して、既に作られていたこれを奪った・・・だろ?」

「ギクリッ」

「大正解だったようだな」

「それはそうだけどさぁ〜」

認めたな。

「それを改造して、こんなこと書いたんだろ?」

「だから改造なんてしてないって!」

「ふむ、じゃあ誰かに改造させたんだな」

「それも違うって」

「じゃあ自作だな?」

「もう、ホントに知らないって言ってるでしょ!」

「そうか、わかった。俺が悪かった」

「ホントに悪いわよ。罰として、42日間私と付き合うこと!」

「それは勘弁してくれ」

「勘弁できません」

「く・・・」

絶対に引かなそうな勢いだな。

「じゃあ、来年な」

「今年じゃなきゃだめ!」

「どうしてもか?」

「どうしても!」

困ったな・・。

俺としても、美亜ちゃんと遊ぶのは一向に構わないのだが、さすがに1ヶ月連続は無理だ。

「代打を駆り立てるか・・・」

しかし、思い当たる者はいない。

「あぁ、そうだ!」

「ど、どうしたの?」

「すまん、夏休みは圭の所に行くんだった」

我ながらよく思いついたウソだ。

「え、そうなの?」

「そうだったんだ、すまないな」

「でも、住所とか知らないんでしょ?」

「ギクッ」

「ふふふ、この美亜様を騙そうとしても無駄よ!堪忍なさい!」

「わかったわかった、とりあえず今日はもう帰ろう。既に日が落ちたぞ」

「むぅ、しょうがないわね。ま、明日にでも細かい予定を立てるとするかー!」

「あ、あぁ・・・そうしてくれ」

ヤケに張り切っている美亜ちゃん。

「それじゃね!」

「あぁ、じゃ、じゃあな」

美亜ちゃんが風のように去っていった。

「困ったな・・・」

42日間か・・・。

今のうちに覚悟を決めておくか?

しかしなぁ、時間の無駄ともとれるのだが・・・。

まぁ、細かいことは明日考えよう。

俺も教室を後にした。













翌日。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

「うおぉぉ!!」

ドッシィィィィィィィィィン!!

・・またベッドから転げ落ちてしまった。

さて、学校に行くまでの間、もう一眠りす・・・

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

・・このインターホンのせいで俺は起きたのだな。

まぁ、出ないまま寝るのもいいのだが、人間として許されない行為なので、すんなり出ておこうか。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

「な、何回鳴らせば気が済むんだ・・・まったく」

ガチャッ

「どちら様・・・」

ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

鉄のドアが鼻先を直撃した。

今までに味わったことの無い痛みが俺を襲う。

「いててててて・・・い、一体誰だ!」

「グッモ〜ニン!・・・相変わらずの朝だねぇ」

俺の目の前には、美亜ちゃんが立っている。

「な、何だ、美亜ちゃんか」

「へへへ〜、お邪魔します〜っと!」

圭がこの街を去ってからというものの、俺の朝は美亜ちゃんの挨拶で始まるようになった。

それにしても、俺の家に寄っていくとかなりの時間ロスになるというのに。

見上げた根性だ。

・・・圭がいなくなって寂しいというのか何と言うか。

あれ以来、かなりの頻度で俺に突っかかってくる。

「またまた朝ご飯頂戴するね〜!」

美亜ちゃんほどの容姿なら、専属の男くらいすぐに出来そうなのだがな。

「むぅ!イチゴジャムが無いぞぉ!」

やっぱり人は外見より性格で人を選ぶのだろうか。

・・世の中も立派になったものだ。

「あれ?君は朝ご飯食べないのかね〜?」

「・・あぁ、俺は朝は食べない主義だ。というか、朝早くからあんまり口に出来んのだ」

「そのセリフは何回も聞いたよ〜」

じゃあ言わせるなよ。

「あ、そろそろ急がないとヤバいのかな?」

「当たり前だろ。さぁ、さっさと行くぞ!」

「え〜、もうちょっとゆっくりしていこうよ〜」

「あ、あのなぁ、ちょっとでもゆっくりできたら、俺は20秒で制服に着替えてないんだよ!」

「ひぇ〜、日増しにスピードが速くなっていくねぇ」

「感心できることじゃないのだがな・・まぁいい」

「はいはい、マジメに行きますよ〜だ」

こうして、俺達は走って学校に向かうのだった。

・・・いつも美亜ちゃんの方が先に教室に着くのは、俺の運動不足のせいだろうか。













終業式が終わった。

俺は通知表を受け取ると、即座に教室から退室する事を試みた。

が。

「いぇ〜!通知表どうだったー!?」

あっさりと美亜ちゃんの手にかかってしまった。

「ま、まぁ、いつも通りだ」

「いつも通り、4と5しか無いワケ?」

「そういうことだ」

「頭のイイ人はイイね〜。アタシなんてほら!2ばっかりだよ!」

「そ、そういう事は大声で言うなって」

「へ?何で?」

「・・・・」

呆れる俺。

「まぁいいか、いつもの事だし」

「さて、それはそうと・・・」

まずい、遊びの話を持ち出してくるつもりだ。

「そ、そういや本当に宿題無かったんだな」

適当に思いついた言葉を口にしてみる。

「だから言ったじゃない。宿題なんて無いよーって」

「ウソじゃなかったのが凄いよな」

「それどういう意味ー?」

普段からでまかせ情報流してるからだよ。

「もー。あ、そう言えば美亜さー、職員室に行かなきゃならないんだよねー」

「日頃の悪行が遂に公になったか?」

「美亜悪いコトしてないモン!・・・じゃなくて、成績の話だって」

「あぁ、なるほど」

俺が納得する様を不機嫌そうに玩味する美亜ちゃん。

だが・・・逃げ出すには絶好のチャンスだ。

「そゆコトだからさ、ついてきてね」

2秒で俺の思惑が打ち砕かれた。

「待て待て。一つ合点がいかないことがある」

「なぁに?」

「何故俺がついて行かなくてはならないのだ?」

「そりゃアンタ、逃げられたら困るからよ」

このお嬢さんは、俺の思想を遥かに上回っているようだ。

「・・参った。もう耐久大会でも何でもしてくれ」

「最初から素直になっておけばいいのよ。じゃ、行こっか?」

「・・はい」

果たして俺の体力はどこまで続くのだろうか。


















職員室。

今日に限ってはいつものピリピリした空気が味わえず、

何か妙に残念なのは俺だけだろうか。

「せんせー、美亜来たよー!」

その先生とやらと美亜ちゃんは奥のソファーがある所にすっこんでいった。

「今なら逃げれるかな・・」

そう思った矢先、鋭い視線が俺に降り注ぐ。

「よりによって美亜ちゃんが俺の方向きに座ってるよ・・」

落胆に満ちた俺の表情を見ながらニコニコ笑ってる美亜ちゃんに、

少しばかりだけだが俺の心が憎しみで燃え上がった。

「ちょっとトイレ行って来る!」

俺は部屋中に響き渡る声を張り上げ、即座に職員室を後にした。



逃げるしかない・・逃げるしかない・・。



俺の頭には“逃げる”の三文字が占領していて、

もはや別人のように変貌した姿で学校を飛び出した。











「ここまで来れば大丈夫だろう・・・」

と、口では言ってるものの、何かと不安に襲われていた。

「ダメだ、もっと逃げなきゃ・・・」

俺は又走り出した。

どこまでも遠く。果てしなく。永遠に・・・。

ドタッ!!

「痛ッッ!」

やっぱり限界がきた。

足はマメだらけで、筋肉がパンパンに張っている。

息もゼェゼェ、何か鏡に映したら物凄い情けなさそうな姿だ。

「・・・・で」

ここは何処なんだ?

「もしかしてこれって・・」

どうやら道に迷ったらしい。

辺りは見知らぬ地。こんな場所、来たコトも聞いたコトも無い。

「・・帰ろ」

何でここまで走って来たのかやっと疑問に思い、俺はトボトボと帰路についた。



















はずだった。

やはり未だに全く知らない場所だ。

どうやら俺は本格的に迷ってしまったらしい。

「弱ったな・・・」

交番も無さそうだし、当分迷ってるしかないようだ。

金も無い上に、誰かに連絡出来るでもない。

連絡・・・。

そうか、俺は携帯電話を持っていたんだ。

「どうして俺はコイツの存在に気付かなかったんだろうか」

どうやら今日の俺は少しオカシイらしい。

「さて・・・」

メモリには三件。

美亜ちゃんと幸恵さんと・・・圭だ。

後二人に電話しても仕方が無いと思い、申しワケ無さげに

美亜ちゃんに電話した。



プルルルルル プルルルルル



「はいコチラ美亜ちゃん情報局ゥ!!」

相変わらずのようだ。

「俺だ」

「あーーーーー!!!今日は何で逃げたのよーー!!」

「すまん、突然腹が痛くなってトイレに篭りっぱなしだったんだ」

君から逃げていたなんて口が裂けても言えないな。

「で、今何処にいるのぉ?」

「わからん」

「はぁ?!」

そりゃそんな声も出るわな。

「いや、だからわからないんだ」

「わからないってあーた、自分が何処にいるかわからないって言ってるのぉ!?」

「大正解」

「大正解じゃないわよぉ!もしかして道に迷ったワケ?」

「そういうコトだ」

「え?っていうか何で道に迷ったりするワケ?」

物凄い鋭いトコロを突いてきた。

「フラフラ道を歩いていたら迷ってしまったのだ」

「えー?その辺の住所とかわからない?」

「全くわからん」

「んー・・・アレ?」

「どうした?」

「何やってんの?」

「だから道に迷っているのだ」

「オーイ、こっちだよ!」

「だ、誰に言っているんだ?」

「君しかいないじゃん!」

イカン、とうとう天からの迎えが来たようだ・・。

「こっちだってば!」

バシッッ!

「痛ッ!」

肩を叩かれる感触がする。いや、した。

「だ、誰だ!?」

「何やってんのぉ〜?」

目の前には何故か美亜ちゃんが立っている。

「み、美亜ちゃん!?」

「どしたの〜?」

「いや、ちゃんと電話してたはずなんだが・・」

「ココは美亜の帰り道ヨ」

迂闊だった。

いや、助かったのだ。

「いやー参ったよ!道に迷っちゃってさぁー!アハハ!」

「アハハ!じゃないでしょ!こんなトコロでナニやってるのかな〜?」

ギクリ。

「ひょっとして、美亜から逃げてたの〜?」

美亜ちゃんの目がイヤらしげに見える。

「だから・・・その、そう!夢遊病なんだ!」

何言ってんだろ俺。

「そっかー、それじゃしょうがないよねー」

通用するのもどうかと思うが。

「それでさー、さっき先生と話してたんだけど」

美亜ちゃんが一通の封筒を差し出す。

「コレ、圭ちゃんの住所」

「え!?」

圭の居場所がわかったのか・・?

「学校宛てに手紙が来たらしいのヨ」

「そうか・・・」

しかし、住所がわかっても、俺は今から美亜ちゃんによる地獄の真夏が始まるのだ。

・・・とても切ない。

「行ってきなよ」

美亜ちゃんの口から意外な言葉が発された。

「美亜ちゃん・・・」

「会いたいんでしょ?だったら行けばいいじゃん!」

「だけど、耐久大会はどうするの?」

「アハハハハ!」

何故か笑われた。

「あんなの冗談に決まってるじゃん!ホント、君って面白いね」

「はは・・・」

どうやら天から一筋の光が差し込んだようだ。

「それじゃ、お土産ヨロシクね」

「ああ、行ってくるよ」

「死なないでね」

「死ぬか」

とりあえず俺は、一旦家に帰ることにした。

・・最後まで美亜ちゃんに世話になったが。











翌日。

俺は色々入ったバッグを背負って、家を出た。

「・・・よし」

目指すは長崎。

そんなに遠いワケじゃないが、何故か遥か異国に点在する地の様だ。

まぁ、半日もあれば会うコトは出来るだろう。

だけど、何故か不安が俺の胸をよぎる。

この先何かイヤなコトが待ってる気がする・・・。

とにかく、俺は駅へ向かうことにした。






駅に着いた。

特にこれまでは何も無い。

やはり思い過ごしだろうか。

「そうだといいんだがなぁ・・」

一抹の不安を抱えて、俺は電車に乗り込んだ。






電車が動き出した。

俺はゆっくりと遠のいていくホームを見つめている。

「そんなに大げさなコトじゃないか」

別に一生離れるわけじゃない。

そんなに不安にならなくてもいいじゃないか。

ちょっと経てばまた戻って来るんだし。

だが、俺の胸からは不安という障害が消えないで残っている。

「電車が出ちまえばこっちのモンさ」

昨日の美亜ちゃんも気が良かったし、これは幸先が良いコトを現してるんじゃないか。

そう思えば少しは気が楽だ。

ひとまず安心して座席に座る俺。

その時、

キキキキキキィィィィィィィィィィィッッッッッッッッ!!!

「うおっ!?」

ドガガガガガァァァァァァァァァン!!

な、何だ?何が起こったんだ?

辺りを見回すと、電車がしっかり90度に傾いている。

「ふ、不安だったのはコレだったのか!」

俺は冷静になって、丁度真上にある窓から脱出した。

「何処ですかココは・・・」

電車が出てから30分くらい。

俺はこの辺りの土地とは無縁だった。

「はぁ・・・」

俺は深い溜め息を浮かべながら、仕方なさ気にトコトコ歩いていった。




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