Melody




「飯田?あぁ、アイツならほら、窓際の席にいるヤツだよ」

僕の名前が呼ばれた気がした。

「飯田 京(いいだ きょう)………アイツか!」

甲高くてウルサイ声が僕の脳に響き渡る。

「おい!!」

どうやら誰かが僕に用があるらしい。

「テメェだよ!おい!起きろ!!」

せっかく人が昼休みを利用した"春眠、暁を覚えず"を堪能していたところ、とんだ邪魔が入った。

「…何?」

「何じゃねぇよ!テメェ、菜乎ちゃんと仲良しなんだってなぁ!?」

「…菜乎?」

一体誰のことだろう。

いや、その前にこのちょっぴり黒人系の男は何なんだろう。

「とぼけんじゃねぇよ。隣の組の八木羅 菜乎(やぎら なこ)ちゃんのことだ!!」

やぎら…?

「いや、わからないんだけど」

「…そうか。じゃあ死ね!」

バシッッ!!

誰かも知らない男に、頭を思い切り叩かれた。

「まぁいい。テメェ次会ったらマジで殺すからな!」

男は颯爽と去っていった。

「・・・・・・・・・」

理不尽でならない。

まず第一に、何故僕は叩かれなきゃならなかったのか。

いや、百歩譲ってそれは別の場所に置いといてみよう。

しかしその理由にしても、そもそも僕は八木羅という人物を知らないし、

「まぁいい」と言ってるのに叩くという、

全くもって意味のわからないことだらけである。

それに、今消えていった男についても、僕は全く知らされていない。

チラッと校章を見たが、アレは一年生、つまり僕の一個下の人物と推定出来る。

一年生に叩かれて嬉しいことなんて一つも無い。

…考えれば考えるほど、何だか途方も無い怒りが込み上がってくる。

「・・・・・・・・・」

僕は昼寝をしていただけなのに、何故こんな目に合わなくてはならないのか。

「今見た?一年が二年の頭叩いてたよ」

「バカ、アイツは根暗だし、しょうがねぇんだよ」

「プッ、何だかダサい話だよね」

周りの悪口は僕の耳にはしっかりと入り込んでいる。

…別にいいさ。どうせ僕には友達なんていないし、ひ弱な生命体だ。

悪口を言われても反論する勇気だって無いさ。

いっそのこと首でも吊ってやろうか。

…誰も何とも思わないのだろうというのが想定出来てしまうことが、何とも悲しい話だ。

「よっ、京。何深刻そうな顔してるんだ?」

「裕太…」

いや、僕にも友達が居た。

柊 裕太(ひいらぎ ゆうた)幼稚園・小学・中学校と同じで、

まぁ、いわゆる幼馴染ってヤツだ。

「またなんか悩み事か?」

「いや・・・・・・」

「まぁお前が悩んでるのはいつものコトか」

ヒドイ言いように聞こえるのは僕の気のせいか。

「お前、また傷増えてんじゃねぇか!」

裕太が僕の手を鷲掴みにする。

僕の手の脈がありそうな部分には、横一線の切り傷が七個あった。

つまり、リストカットの跡というワケだ。

ちなみに七個というのに特に理由は無い。

「いつものコトだよ」

「お前なぁ…」

僕はよくリストカット、略してリスカ(響きがカッコイイ☆)をよくやる。

別に何か悩みがあるでもないし、困ってるワケでもない。

リスカは小さい頃からあまり良い環境で育たなかった僕の唯一の逃げ場であって、

そこに大きな意味は無いし、単なる習慣の一つなだけだ。

他人がどう思っても僕には関係無いし、その他人にも全く関わり合いは無いのだ。

それを血相変えてリスカぁ!?なんて言われても、僕には、あぁ、この人は頭の方が

少しおかしい人なんだなと思うだけなのである。

…誰かに構って欲しいだなんて思わないし、その為にリスカをやってるワケじゃない。

きっとそれを言いたかったのだな、僕は。

「ホントもう、それやめろよな!」

裕太は血相を変えて怒鳴る。

「毎回毎回言ってんじゃねぇかー。自分傷つけてもしょうがねぇって」

裕太は僕がリスカをする度に説教を始める。

そんな彼は僕の中で頭の可哀想な人ランキング栄光の一位の人間だ。

「裕太ぁー!」

ドアの辺りで裕太を呼ぶ女性がいる。

「おぉ、どしたー?」

すると、その女性は僕と裕太に近づいてきた。

「どしたーじゃないよ。何か三年生の人が呼んでたよ?」

「え?なんだろ」

「あら、京君じゃない。おはよ」

確か、この女性は雪野 真咲(ゆきの まさき)さん。裕太の彼女だ。

クラシックギターが得意で、僕も何度かその音色を聞いたコトがある。

それは、結構深いものを感じ、何か大切なものを忘れてしまったような気分にさせられる。

クラシックの味わいを、彼女は高校生にして会得したようだ。

「じゃ俺は行くけど…」

「うん、後でね」

そう言うと裕太は教室を後にしてしまった。

しばらく僕はドアの向こうを見つめた。

「あのさ…」

不意に雪野さんが話しかけてきた。

「京君、詩とか書ける?」

「詩?」

「うん。新しいメロディラインが浮かんでさ、誰かに詩を書いてもらいたいんだ」

「裕太に頼めばいいんじゃないかな?」

どうしてわざわざ彼氏の友達に頼むのだろうか。

「裕太はダメなんだ。今度のは裕太の性格とは合わないから」

つまり今度のメロディとやらは悲観的で自殺未遂経験があって…というコトなのだろうか。

「結構もの悲しいメロでさ。背徳的なんだけど、そこにもまた…」

雪野さんはこと音楽の話になるととても熱心に喋り出す。

周りが見えなくなるほど語るので、裕太的にはちょっと困っているのだとか。

しかし、僕ともの悲しげなのをイコールで繋げたのがちょっと気にさわった。

別にその通りだし反論は出来ないけれど、やっぱり面と言われるのは寂しいものがある。

「放課後屋上でギター弾くから、見にきてな」

雪野さんも教室を後にした。

「詩……か」

僕は文系の人間でもなければ、日頃何か書いているワケでもない。

だからいきなり詩を書いてなんて言われても、二つ返事でハイとは言えない。

…言えないのだが、去ってしまった今ではもう遅いようだ。




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