Melody




「さてと・・・・・・」

午後の授業が終わり、僕は屋上への階段をのぼるかのぼらないかを決めかねていた。

授業中ずっと「詩を作るコトに意義は??in 2-A」に没頭していた結果、

"特に無いんじゃないか"という決断を下したワケなのだが、

いざ屋上へと誘う分岐点に立ってみると、やはり少々戸惑うワケで。

第一僕はそれほど雪野さんと親しくもないし、それに他の知らない面子が集まっていたら、

何だかやるせない思いに浸ってしまうだろう。

放課後という有意義なのか無意義なのか微妙な時間を、

出来もしない「詩を作る」という行為にあててしまっていいのだろうか。

答えは否。

だが、ここで僕が雪野さんのコトをシカッティング(シカトの現在進行形。ナウい?)

してしまったら、きっと裕太は陰でコソコソ僕の悪口を繰り広げるだろう。

そもそも悪口とは・・・・・・いや、今はそんなコトで脳内を賑わす時ではない。

行くか行かないか。

僕は階段を勢いよく走り出した。













ジャンジャカジャン ジャンジャカジャン

春と言えどまだ寒さは抜け切っていない。

風は冷たく、雲が太陽を覆ってしまっている為に一層寒い。

ジャカジャカジャーン

「どう?」

雪野さんがギターの感想を聞いてくる。

「いい・・・・・・と思うよ」

結局僕は雪野さんの所へ来ていた。

唯一の救いなのが、僕達二人以外に誰もいないというコトだけか。

「はっきりしないね」

そういう人間なのだ。

何をするにしても中途半端で「はっきりしない」という語が我ながら良く似合っていると思う。

何事も良い方向に捕らえられないから、って昔裕太が言ってたっけ。

大きなお世話だ。

「この、曲の始まりからAメロにかけてのところがさ、自分で作った割には気に入ってんの」

音楽に疎いから何とも言えないのだけど、

俗にその部分は「イントロ」という語で一括りに出来ないのだろうか。

間違っていたら申し訳無いのであえて言わないでおこう。

「ねぇ、詩書けるかな?」

「どうだろう・・・・・・」

「書いたコトあるんでしょ?」

一体どこの誰がそんな噂を垂れ流すのだろうか。

いくら僕が悲観主義でペットに熱帯魚を飼っていそうなキャラでも、

詩を書いたコトなんて17年間で一度も無いのだ。

「悲しそうな瞳してるね…」

そんなコトを言われているのだから悲しくなるのは当たり前だ。

「どっかのアーティストのパクりでもいいからさ、あ、でもなるべくオリジナルでさ」

どっちなんだ。

「良かったら書いてくれないかな?」

二つ返事は出来ない。

僕の頭にその文だけがよぎる。

「あの・・・・・・」

「ていうか、紙とペンあるからさ、ちょっと書いてみてくれない?」

「いや・・・・・・」

「暗い感じでいいからさ。うん、頼むよ」

気が付くと僕はボールペンと一枚のルーズリーフを持って佇んでいた。

僕は人の頼みは断れないとても優しい人間なのだ。

…そうやって自分を慰めている自分がとてつもなく侘しい。

「適当でいいからさ」

適当でいい、か。

適当でいいなら自分で書けばいいのに、って言ったら怒られるだろうか。

「・・・・・・・・・」

僕はミッキーが万歳したポーズがオシャレなボールペンの先に全神経を集中させた。

やるんだったら本気でやらなきゃ申し訳無い。

適当でいいんだったら自分でやっているはずなのだ。

そこをあえて僕にやってもらっているというコトは、心の何処かで僕に期待を寄せているのだ。

いいでしょう、やりますよ僕は。

いじめ・差別・軽蔑・暴力・恐喝・脅し・腐ったハンバーガーを口に入れられた。

そのほとんどに耐えてきた僕の力、見せてあげますよ。

ちなみに耐え切れなかったのは一番最後の腐った・・・・・であるコトは秘密だ。

そもそも「いじめ」〜「脅し」はほとんど意味が一緒なのは僕の茶目っ気の証だ。

・・・・・・そんなコトはどうでもいい。

さぁ、僕の頭脳を駆け巡るあらゆる語句よ。

もの悲しげで哀れな単語よ。

今こそ詩を書かんとする、我の腕に宿れ!!!!

バタンッ!!

ドアが勢いよく開いた。

それと共に、僕の集中力は泡になり海へ帰っていった。

「やっぱりココに居たんだ」

振り返ると、結構な程可愛らしい女性が僕達の方へ歩んできた。

「菜乎じゃない。どしたの?」

菜乎・・・・・・?

「帰ろうと思ったんだけど、真咲教室に居なかったから」

何処かで聞いたような気がする。

「あ・・・・・・」

その菜乎という女性は僕と目が合った瞬間立ち止まった。

「えっと・・・・・・」

「あぁ、彼は飯田君っていうの。今度詩を書いてもらおうと思ってね」

「そうなの。私は八木羅 菜乎。真咲とは昔からの親友よ」

困った。

「やぎら なこ」という言葉に覚えはあるのだが、何処で誰に聞いたのだかを思い出せない。

「真咲とは・・・・・・えぇっと、柊君との繋がり?」

「そうだよ。結構ネガティブな詩書くらしいんだ」

「詩書きなの?良かった、お友達になれそうね」

「菜乎とは・・・・・・うーん、結構似てるのかな?」

「そうね。私も結構暗い詩が好きだから」

マズイ、色々考えていたら話についていけなくなってしまった。

・・・しかし、今雪野さんはこの菜乎という女性と僕を似てると言ったような。

「・・・あんまり喋んないんだ?」

「考え事が好きなタイプらしいよ。裕太曰く」

このまま二人だけで盛り上がってくれてもいいんだけど、

それでは僕がここに来た意味と時間が無駄になってしまう。

お、今さりげなくそれっぽいコトを言ったね。

…違う、何か喋らなくては。

「似てるんなら、何で僕に詩を?」

これだけの発言で精一杯だった。

なぜなら、ぶっちゃけてしまうと菜乎という女性があまりにも可愛いからだ。

ストレートで長い黒髪・・・・・・青春ドラマかなんかじゃありがちだけど、

ありがちだからこそ好きだ。

いや、決してありがちなのが好きなんじゃなくて、その・・・・・・って、誰に弁解してるんだろう。

ともかく、可愛いのだ。

「今結構噂になってるんだよ?」

「え?」

「京君が結構なポエマーだってコト」

雪野さんが途方も無く悲しいコトを言い出した。

なんだろう、この虚無感にも似た感情。

その発言を否定したいんだけれど、そんな事実は一切ございませんと言いたいのだけれど、

心の奥底では「でもなぁ・・・」と思いとどまっている自分がいて、

その、なんだ、あぁ〜、ワケがわからない。

「あ、京ってこの人だったんだ!」

八木羅 菜乎が驚いた表情で僕を見つめる。

いや待てよ。

僕は彼女のコトを知らないのに、

何故彼女は僕のコトをあたかも知っているかのような発言をしたのだろうか。

「ちょっと待って」

僕はその場全体を否定するかのように切り出した。

「どうしてそんな噂が・・・・・・?」

「うーん、噂だからわからないけど、京君はポエマーらしいよ?」

だからどうしてそんな噂が流行ったのだ。

「違うの?」

八木羅 菜乎が悲しそうな、かつ冷たい瞳で僕を睨む。

一瞬、周りにあるモノ全ての音が遮断された。

なんというプレッシャーだろうか。

八木羅 菜乎のそれは、すごく嫌悪的で、でもまだ何かに対する希望は持っていて……。

そんな感じの眼差しだった。

「まぁまぁ。それじゃさ、とりあえず詩を書いてもらってさ、それ見て判断すればいいじゃん?」

雪野さんが重い雰囲気(あくまで僕だけが思っている)を打開してくれた。

「そうね。見れば普段書いてるかどうかわかるし・・・・・・」

どうやら僕は「出来れば書いてほしい」というより、

「書かなくてはならない」という状況に陥ってしまったようだ。

…果たして先程の集中力を取り戻せるだろうか。

雪野さんはギターを弾き始めた。

八木羅 菜乎はそれを座ってジッと眺めていて、時折こちらを振り向く。

うーん、そうだな。

そうか、この状況を詩で表せばいいのか。

それが一番楽だろう。

それでダメならダメでとっとと帰ればいいんじゃないか。

よし、僕の意志は決まった。

雪野さんという友達の彼女が居て。

八木羅 菜乎という思い出せない女性が居て。

その傍に一つのギターがあって。

そんなイメージでいいか。

僕は勢いよくミッキーを走らせた。




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