ChristmasScars




外観とは裏腹に、ヤケに落ち着いた空間だ。

壁やカウンター等には、白と薄い黄色で統一されたインテリアをあしらい、

実にお洒落とでも言うべき格好になっている。

ティーカップや小さいお皿の一つでさえ、奇形な模様なんてのを一切排除し、

そのシンプルに彩られたカタチに自然と気分は落ち着いていく。

「ふぅ…」

紫煙を穏やかに吐き出す。

軽くアップルティーを口に含み、香りを堪能。

優雅で晴れ晴れとした気持ちが込み上がってくる。

「あ、桐君!それ私の!!」

「いいじゃねぇか、減るモンでもねぇし」

「減りまくりだよぉ〜!私全然食べれないじゃない!!」

「大丈夫大丈夫、好きなだけ注文していいんだからよ」

「そっか☆あ、すみませーん!コレとコレ下さぁーい♪」

「あ、俺コレもう一個ね」

ドンッッ!!

俺は強く握り締めた拳をテーブルに叩きつけた。

「どったのマコっちゃん?」

「アホたれ!!貴様等、限度ってのを知らんのか!!!」

「まぁまぁ、そろそろフィニッシュデザートが来るからよ」

「やかましい!何がフィニッシュだ!!」

「でも、マコっちゃんが言ったコトだし」

そう、思えば俺がバカだったんだ。

店に入って、席について、何を食べようかとぐだぐだ話していた時。

悠だけが全然決まらず、なんとなくうざったくなった俺が、

もののはずみでつい"好きなモンを好きなだけ食えばいいだろ"なんて言っちまったからだ。

ほんのちょっとした油断だったんだ。

そしたらコイツ等、店員に向かって飲食物名の連呼。

ちょっとでも気を許したのが甘かった。

「大体キリンは…」

「差別は良くねぇよなぁ?」

「そうだよ、桐君だって人間なんだから」

コイツ等。

いつの間にタッグなんか組みやがったんだ?

俺を簡単にあしらってくれやがって。

「まぁまぁ、なんつーか、千佳ちゃんパーティーの前哨戦?」

何がだ。

「そっか、女神サンが来るんだよね☆飲み物とか用意しなきゃね♪」

「俺持ちでか?」

「まぁ、そうなるわな」

「アホたれ。それくらい各々買えばいいだろ」

「あぁ、そうだな」

そう言ってキリンはスパゲティをすさまじい勢いで貪る。

お前絶対話聞いてねぇだろ?

「今日は千佳ちゃんも来るし、メシもたらふく食えるし、最高だわ」

12個目の皿をたいらげたキリンがほざく。

俺は容赦無く最低だ。

「失礼します、こちらマンゴープリンと、チョコスプラッシュと、

苺のショートのミルク仕立てと、カリブ海を想わせるデザート達と、

夢見る少女の甘い香り"ザ・モンブラン"と、崇高なる大地に聳え立つ勇敢な旅人の…」

指に挟んでいた煙草が落ちる。

「そんなに頼んだのか!?」

「あぁ」

「うん☆」

開いた口が塞がらない。

「以上でご注文の方はよろしいでしょうか?」

「OKでぇーす♪」

伝票が机に置かれる。

「はん、よく食うわ…って、なんだこの名前わ」

夢見る少女?勇敢な旅人?

バカにしてんのか?

「うん、こりゃカリブ海だわ」

ワケのわからない果物を頬張りながら微笑むキリン。

…やめてくれ。

「はぁ」

俺はタバコを取り出し、火を付ける。

ボシュッ

心なしか、辺りにあるステンドグラスやらモダンな彫刻が全て醜く見える。

「はぁ」

怒りを通り越して悲しいとはこのコトに相違無い。

「そんなため息ばっかつくなよ」

キリンがほざく。

「幸せが逃げていっちゃうよ☆」

何故か嬉しそうに言う悠。

「お前ら、最低だ」

こんなのを友人に持った俺はもっと最低になるのか。

やるせない限りだ。

「ん?」

ちょっと離れた席のヤツ等が、こっちを見てニヤニヤしてやがる。

こりゃケンカ売ってる証拠だわな。

俺は火を指で潰す。

相手は、2、3…5人か。

俺の感情は、悲しさから怒りに舞い戻ってきた。

しばらく地上には来てなかったが、この辺で俺がケンカを売られるってのは、

まずありえないコトだ。

手当たり次第にこの辺はシメたハズなんだがなぁ。

「おい」

キリンに話し掛ける。

「ん?」

「俺、先に買い物にでも行っとくわ」

「お?」

キリンがチラッと俺の目線の方を確認する。

「おぉ、わかった」

"買い物"ってのは、俺らの通し用語で、つまり"ケンカ"になるワケだ。

何で買い物がケンカなのかはサッパリわからんが、

キリン曰く"選んで買うってのが同じだからだろ"らしい。

割といい加減なモンだ。

俺はサイフから諭吉サンを2枚取り出し、机に投げ捨てる。

「ポテチも買っといてねぇ〜☆」

そんなコトとは露知らずと言った表情で悠が言う。

「わかったわかった」

軽く促し、買い物場所に行く。

「おい、テメェらまとめてオモテ出ろや」

小声で軽くドスをきかせた声で言うと、コイツ等はやる気満々のご様子。

5人共相変わらずのニヤケ顔で、静かに俺についてくる。

上等だ。

「兄ちゃん、もしかしてケンカ売ってんの?」

店の反対側の通りに出ると、長髪のチャラチャラしたヤツが言ってきた。

なんだか一番最初にコイツを殴ってやりたい気分だ。

「1人で来るたぁ、バカにも程があるってんだ」

仲良し5人組は爆笑。

何がそんなに可笑しいのやら。

ドゴッッ!!

「うぐぇ……」

何も言わず、俺はとりあえずみぞおちを殴ってやった。

低い呻き声を洩らし、長髪野郎が前のめりに倒れ込む。

「テメェッッ!!」

バシッッ!!

ゴッッ!!

バキッッ!!

早くも残りは1人になった。

「てっ、てめ、てめっ!や、やややったなてめっ!」

やたらと切羽詰った様子の赤髪のチビ。

ガンッッ!!

「が……はっ…」

ドサッ

「はぁ」

つまんねぇ。

誰を何回殴っても、つまんねぇ。

心のモヤモヤが取れねぇよ。

「なんだろうなぁ」

メシをオゴらされるのとも違う。

ケンカ売られるのとも違う。

「12月だからか?」

忌々しいあの日が近いからなのかもしれない。

日に日に、心に余裕が無くなっていくのがわかる。

こんな生活続けてたら、死んじまうんじゃねぇのかね。

「はん」

くだらねぇ。

俺をこんな腐った人間にしやがって、くだらねぇよ。

そんで、見下ろすように笑ってるんだろ?

俺は空を見上げる。

なんとなく、雨が降りそうだ。

いっそのコト、止まない雨を降らせりゃいいのに。




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