地下に戻ると、キリン達が既に帰ってきていた。
「あぁ」
何だかわだかまりのようなモノがある俺は、昨日よりも更に気分が悪い。
「マコっちゃん、飲み物は?」
「アホたれ。テメェで買えっつったろ」
そう言って俺はウーロン茶のペットボトル(500ml)を四本置く。
何だかんだで、いつも通りのように普通に買ってきてしまっていた。
「さっすが!だから大好きなのぉ〜☆」
そう言うと俺に抱きついてくる悠。
「やかましい!」
思い切り跳ね飛ばす。
「やんっ☆」
付き合ってられん。
「はぁ」
ため息をつきつつ、タバコに火を付ける。
「今何時だ?」
キリンに聞く。
「14」
やたらそっけない。
「あぁ〜あとちょっとで千佳ちゃんが来るのかー!」
キリンは興奮気味に、ワケのわからないステップを刻みだした。
そんなに嬉しいのか。
「まぁ実際来るかどうかはわからんと思うがな」
吐き捨てるように言い、俺はウーロン茶を軽く飲む。
「掃除はした。テーブルもある」
いつの間にかコタツが用意されていた。
「どっから持ってきたんだ?」
「あとしてないのは…そうか、身だしなみがなってないな」
「聞けよ」
「よし、ちょっくら便所行ってくるわ」
キリンはそそくさと一階に向かった。
「なんてヤロウだ」
俺はコタツの上に何故かあるミカンにタバコを押し付けた。
「ったく、わざわざ買ってきたのかよ」
なんとなく新品っぽかった。
アイツ、そんなに金持ってたっけ?
金が欲しくてバイト探してるとか言ってたけど。
「んとね、さっき二人で買ってきたの☆」
悠が嬉しそうに口を開く。
「そうか」
「ホラ、駅から学校に向かう途中に、大きな電気屋があるでしょ?」
「あぁ、あそこでか。なるほど」
「そゆコト♪」
「待てコラ」
「へ?」
「テメェ等金持ってたのか!?」
「何が?」
「…昼飯代出したの誰だよ?」
「あ……」
やっちゃった、みたいな表情の悠。
「違うの、違うの」
「何が違う!?」
「たまたま小峰君に会ってね、お金くれたの」
「見え透いたウソをつくな!この超アホたれ」
つーか小峰君って誰だよ。
「うぇ〜ん、超アホたれって言われたぁ〜…」
「やかましい!」
「でもいいじゃん☆コタツ暖かいよ♪」
そんなんでまとめたつもりか。
「はぁ…」
12月ってコトもあって、気分が滅入ってるハズだった。
だが、更に深く沈ませてくれるヤツがいると、こんなにやるせないコトは無い。
「いよっしゃー!」
それが同時に二人もだ。
なんていうか、ムカつくでもなく、悲しいってワケでもなく、
気持ちが変に浮遊してる感じだ。
意識が薄っすらとしていて、まるで雑踏にもまれているように。
「コレで完璧だろ!」
さっきまで見事なくらい金色の髪にツイストパーマをかけた金ゴリラのようなヤツが、
急に黒の7:3分けに牛乳ビンメガネとスーツで登場した。
サラリーマンよりサラリーマンらしくねぇ。
「マコト、どうだ?」
「死ね」
「男にはわからねぇわな」
じゃあ聞くな。
「三菱は?」
「のーこめんと☆」
キリンは5秒程止まったと思うと、急いでまた一階へ駆け上がっていった。
「せわしいヤツだ」
ボシュッ
いつもより煙の量が多い。
「楽しみだなぁ☆」
悠が呟く。
「何がだ?」
「女神サンの来訪♪」
「はん」
来るワケねーと思うんだがなぁ。
「ココの場所ちゃんと教えたのかな、桐君」
「はん?」
「だって、ココに直接来るんでしょ?」
しまった。
すっかり忘れてたが、この場所は俺を含めて三人しか知らないんだった。
もし女神サンがこの学校に来るとしたら、当然、誰かが尾行、
あるいは強引に女神サンと同行してくるかもしれない。
先公が目ぇつけた日にゃ、この場所もバレて使えなくなるかもしれねぇ。
「何か考えてるの?」
悠が怪訝そうに聞いてくる。
「え?あぁ」
「マコト、いつも深く考える時、人差し指をこめかみに当てるからすぐ分かるよ☆」
「そうか」
そんなコトはどうでもいい。
「マズイな」
「ふぇ?」
「呑気に茶なんてすすってる場合じゃねぇ」
俺はタバコを投げ捨て、キリンの元に向かった。
「おい」
「ふぁ?」
ストライプのシャツにジャージ、そしてテンガロンハットを被った
キリンという名の気違いが、ウザイ程腑抜けた声を上げる。
下はブリーフだった。
「女神の特徴を言え」
「あぁ?あぁ、茶髪で美形」
「具体的にだ」
「アイラインがポイント」
「殴るぞ」
「一目見りゃわかるぜ。まさに女神だからよ」
まぁ、その辺は制服と勘で見極めるしかねぇか。
「ちょっと出てくるわ」
「あいよ」
聞きなれない鼻歌を刻むキリンを背に、俺は地上への扉を開けた。