ChristmasScars




ヤケに落ち着いた空間。

4人居てもちょっと広いくらいだが、何故かこじんまりとしている。

壁は黒く汚れ、所々に茶色いシミの様なモノが浮き上がっている。

そんな中、白いテーブルかけだけが異様な雰囲気を醸し出している。

縦長の長方形のテーブルにおさまりきらないその雄姿はどこか滑稽でもあるが。

「ねぇねぇ、どう?おいしい?」

「うん、中々イケてるよ」

「洗練された赤ワインの香りが食欲を一層引き立てている…ふっ、成功だな」

「………」

何だか妙な抑揚だ。

というか、キリンに突っ込みを入れるコトさえダルくなってきている。

「どう?マコっちゃん」

「あぁ」

「あぁじゃわかんないよぉ〜」

至極嬉しそうに言う悠がわからない。

「美味いは美味いが、こんなのどっから持ってきた?」

思えば見たコトも無いテーブルに、テーブルかけに、食事の数々。

特にこの豪勢な食品は、一体どこから湧いて出てきやがったのか。

「パーティー用☆」

「買ってきたのか?」

「そういうコト♪」

金が無ぇ素振りを見せてはいたが、実際昼飯代を払った俺より金かけてるんじゃねぇのか?

まぁどうでもいい。

「こんなすごいセット、結構したでしょ?」

「大丈夫、ぜぇ〜んぶ千佳チャンの為だから☆」

そういう問題じゃないだろう。

「マドモワゼル千佳、ワインのおかわりはいかがかな?」

クソ長い付けヒゲをたなびかせているキリンが言う。

一度殴ってやりたい。

「あら、じゃあお願いしようかしら」

「かしこまりました」

キリンはそう言うと、いかにもな仕草と共に、これまたどこから持ってきたのかわからない、

いささか古びたワインをトクトクとグラスに注ぎ始めた。

だからお前は何様なんだ。

「ありがとう」

「ごゆっくりどうぞ」

キリンはウォッホンと咳払いをすると、澄ました顔で悠長に構えた。

どうもキリンのテンションがおかしい。

つーか、バカげている。

ボシュッ

何となく食べる気分でも無いので、タバコに火をつける。

「マコっちゃん、全然食べてないジャン!」

「食欲が無ぇ」

俺はそう吐き捨てるように言うと、ウーロン茶を口に流し込んだ。

しかし、胃が拒絶反応を示す。

なんとなくイヤな予感がした俺は、咄嗟にトイレの方向へ走った。

「どしたの!?」

悠とすれ違い、俺の足は徐々に加速していく。

俺はトイレのドアを開けると、すぐに膝をついた。

ちょうど顔がすっぽり便器にハマるような形になる。

「………」

静かに、口から苦い液体が流れ出る。

不思議と嗚咽感は全く無かった。

ただ、悔しさに似たモノが、目頭の辺りに込み上がって来る。

何だ、この感覚は。

つまらない映画でも見た後のような、苛立たしさ。

「マコっちゃん、大丈夫!?」

今まで溜まっていた分のストレスが一気に集まった感覚。

「ねぇ!」

悠が背中をさすりながら叫んでいる。

「いや…大丈夫だ」

「本当に大丈夫?」

「あぁ」

心なしか、瞳が充血している気がする。

しかし、こんな時でさえタバコを指から離さない俺は一体。

とりあえず吸ってみる。

「フーーッ」

意外とマズいモンでもない。

「ダメだよ、タバコなんて吸っちゃ」

悠が俺の指からタバコを取り上げる。

今の俺にはそれを取り返す力さえ無い。

「どうしたの?」

千佳が怪訝な顔で訊いてくる。

「何でもねぇよ。それより、お茶取ってくんねぇかな」

「あ、うん」

千佳は握っていた自分のペットボトルを俺に渡した。

まだ半分以上残っていたが、俺は遠慮なくそれを飲み干す。

「おいおい、大丈夫かよ?」

キリンがゆっくりと近づいてくる。

お前は来なくてもいい。

「あぁ」

「しょうがねぇなぁ、ほら」

そう言ってキリンは俺をおぶる。

「病人は下で寝てろ」

「だから、大丈夫だって」

「三菱、毛布用意しといてくれ」

「おっけー☆」

「千佳ちゃんは、とりあえずここに居てくれ。すぐ戻るから」

「うん…」

「お、おい!」

俺の言うコトを全く聞かず、キリンはスタスタと地下に降りていってしまう。

まるで軽いモノでも持つかのように、俺を担ぎながら。

…なんか、ムカつく。

だけど、心地良くもある。

自分の足で歩くのは、疲れた。

だから、ずっとこのままでいれりゃいいのに。

「そうだな」

キリンが何故か頷く。

コイツわ人の心が読めるのか?

ドサッ

「いてぇよ」

もっと丁寧に寝かせてくれるのかと思いきや、ほとんど投げ捨てられる形で床に落ちた。

「まったくよぉ」

キリンはタバコに火をつける。

「確か去年も同じ様なコトがあったよな」

キリンは冷静に語る。

「そん時は、クリスマスの二日前とかだっけな」

「覚えてねぇよ」

「何だよ、驚いてんだぜ、俺は」

「何がだ?」

「だから、その時は今日みたいに、ココに誰かが居たワケじゃなかったからな」

キリンは煙を深く吸う。

「丸一日くらい台所でブッ倒れていやがったんだよ、お前は」

「そうだったかな…」

「その次の日にお前が何もかも話してくれたじゃねぇか」

キリンはタバコを投げ捨てる。

「俺も三菱も、そんなにバカじゃねぇからよ」

キリンはそう言うと、ゆっくりと階段を上がっていった。

「あぁ、今日はもう寝てろよ」

まるで、また倒れたら対応がダルイから、起きてくるなと言わんばかりに。

電球が半分だけ消される。

「はん」

言われなくてもそうするさ。

現に立てねぇんだよ。

「………」

そういえば、去年も、一昨年も、その前からも、

あの日が近づく度に、ヤケに胸クソが悪くなる傾向にある。

それが気持ち悪いだとか嘔吐だとかに繋がるんだから、たまったモンじゃねぇな。

「………」

「………」

ボシュッ

ポケットからタバコを取り出し火をつけるという行為を、自然的に行う。

やるせなさの塊が、上へ向かっていく。

天井に届くか届かないかのトコロで、それらは全て消える。

いや、正確には、見えなくなる、だ。

そこにはカタチが無いだけで、存在しているハズだ。

「………」

「………」

思えば俺もモノ好きな人間だと思う。

でも、そうさせたヤツが悪いだけで、俺は決して間違ったコトをした覚えは無い。

俺をこうさせた人間。

俺をこんなヤツに育てた環境を作った人間。

「………」

「あのなぁ」

俺が一声出してやると、少しだけ地鳴りがする。

ビクビクしてんじゃねぇよ。

「何か用か?」

薄暗くてよく見えないが、おそらく人がいるであろう方へ向かって言う俺。

「用が無くちゃ来ちゃいけないの?」

こういうヤツだ。

渋すぎて渋すぎて、食えたモンじゃねぇ。

「で、何だよ?急に倒れたのが可笑しくて大笑いでもキメに来たのか?」

「そんなワケ無いじゃない」

あっさりと吐き捨てるように言うと、千佳はタバコをくわえた。

「病人の前で吸うな」

「タバコくわえてる病人に言われたくないわね」

ヤケに冷静だ。

「………」

千佳はタバコをくわえたままポケットをまさぐりだす。

が、収穫は無かったらしい。

「はん」

哀れむように笑ってやる。

「んー……」

タバコをくわえたままじゃ喋れねぇわな。

「しょうがねぇな」

手招きで来い来いをしてやる。

こう暗くちゃ分かんねぇかと思った矢先、千佳はゆっくりと俺に近づいてきた。

ボシュッ

「ありがと」

表情を変えずに言われても、嬉しくも何ともない。

「で?」

「うん」

千佳はゆっくりと煙を吐くと、軽い咳払いをして、話す体勢を作る。

「さっきのコトだけど」

「あぁ」

「特に意味は無いのよ」

何故か誇らしげに言う千佳。

つまり、俺の予感が的中してたってワケだ。

「やっぱりな」

「やっぱりって、わかってて聞いたんじゃないわよね?」

「さてね」

俺は思い切り煙を吐き、タバコを投げ捨てた。

「似たような空気が流れてるからよ」

「誰と?」

「俺と、お前」

そう言うと千佳は、苦笑に近い表情を浮かべる。

「そうかもね」

千佳は煙を上に向かって吐きながら答える。

その表情は、どこか曇り気味だった。

「どうかしたか?」

言いたかなかったが、言ってやる。

「さてね」

ニヤニヤ笑いながら、千佳はポケットから取り出した携帯灰皿で火を消す。

そのせいで、元々あんまり見えなかった千佳の顔が、より見えなくなる。

つーか、マネすんな。

「私、帰るよ。お大事に」

千佳は俺の答えを待たず、しかしゆっくりと歩き始めた。

何故だか、その姿には違和感があるように思えた。

「………」

気になるほどのモンでもねぇ。

俺は毛布をかぶりなおして、目を閉じた。




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