Melody




「え?」

雪野さんが立ち止まった。

「裕太!!」

ドアを開いたのは、顔面が血だらけになり歩くのを不自由そうにしている裕太だった。

「どうしたの裕太!?キャア!何で…何で血なんか!?」

雪野さんが駆け寄る。

「ちょ、ちょっと階段から落ちて……痛ッッ!!」

ところどころついた血のせいで、誰が見てもウソだとわかる。

それに、あの曲がっちゃいけない方向に曲がった右足は、きっと折れている。

「嘘!!ケンカでしょ!?」

「へへっ……でも俺は手を出してないから、ケンカにはなってないわな」

裕太は地面に転がった。

「そんなコトどうでもいいよ!保健室、保健室に連れていかなきゃ!!」

この時間帯に保健室はやっていないだろう。

それに、骨折しているのなら病院に行った方が賢明だ。

「裕太……」

僕は裕太の傍に駆け寄った。

「京……」

「とりあえず、僕の背中に」

「・・・・・・すまねぇ」

僕は裕太を背負った。

心なしか、生温かい。

殴られすぎて身体が熱を持ったのだろうか。

「このケガだと、病院に行った方がいいと思う」

僕の発言に皆は頷いた。
















「一体誰がこんなコトを……!!」

ギターを抱えたままの雪野さんが泣きながら呟く。

「大丈夫だよ、すぐ治るから、ね?」

八木羅さんが慰める。

僕達は病院の治療室の前にただ立っていた。

イスはあったのだが、誰も座ろうとはしない。

雪野さんに座るよう説得したのだが、錯乱状態でそれどころではなかった。

それに僕達も、あまりに突然な出来事に少しパニックになっている。

「そういえば今日、三年生が裕太を呼び出したんだよな…」

ふとそのコトを思い出して発言した僕は、マズイコトを言ってしまったコトに気付く。

「それだよ!三年の奴等がやったに違いないよ!!」

雪野さんを更に興奮させてしまったらしい。

しかし、それだと決め付けるにはまだ早い。

実はその呼び出しは委員会か何かの打ち合わせでちょっと行っただけで、

また違う別の何かによって裕太はケガをしたのかもしれない。

だけど、今の所三年生の件が濃そうだ。

「明日学校で聞けばいいじゃない?ね?だから今は落ち着いて」

八木羅さんは僕に「ダメ」という視線を送りつつ、雪野さんをなだめた。

・・・・・・あまり軽薄は発言は避けよう。

「明日もクソもあるかぁ!今から三年全員に仕返しだ!!」

雪野さんは頭の中の何かが5,6本キレてしまったらしい。

その時、場の気まずさを打ち砕くべく治療室の扉が開いた。

「ねぇ!どうなの!?裕太は大丈夫なの!?」

雪野さんが真っ先に医者に飛びついた。

名前が真咲だけに真っ先に。

・・・・・・笑えない。

「な、なんですかお嬢さんは」

お医者さんはかなり困惑した表情で後ずさる。

「ゴメンナサイ、ちょっと興奮気味なんです」

すかさず八木羅さんがフォローを入れる。

「彼は、まぁ三日程安静にしてれば大丈夫ですよ」

「そうですか・・・・・・良かったね、真咲」

「良くない!」

吠える雪野さん。

「大体裕太がケガをするコト自体おかしいんだよ!何でだよ?何でなんだよ!!」

「真咲!いい加減にして!」

八木羅さんの一言でこの空間は音を失った。

・・・・・・八木羅さんがまさか雪野さんを叱るとは。

「ここは病院なんだから・・・・・・先生、申し訳ありません」

「いえいえ、まぁ、ね」

中年とお爺さんの狭間くらいのお医者さんはかなり脅えてる様子だ。

年頃の女の子二人の大声を間近で聞けば誰だってそうか。

現に僕は尿意まで感じてきたが、ギリギリセーフだ。

「くっ・・・・・・」

雪野さんは歯を食いしばっていたが、ついに耐えられず走り去ってしまった。

「真咲・・・・・・!」

もう雪野さんの影は無い。

なぜなら、すぐそこが曲がり角だったからである。

・・・・・・さっきから僕は雰囲気を壊しすぎだろうか。

「お二人さん、今日はもう帰りなさい」

お医者さんが震えた声を滑らす。

「えぇ・・・・・・行きましょう、飯田君」

「うん・・・・・・」

でも僕は、裕太のコトが気がかりだった。

僕の背中にのせる時、何か言いたげだったような・・・・・・。

まるで誰がこんな目にしたのか、僕にそれを告げるような。

裕太・・・・・・。

「京・・・・・・」

あの後に続く言葉は、何だったんだろう。

「・・・・・・すまねぇ」

何に対してすまねぇなのだろうか。

僕の脳の回転率はいつものようにトロかった。

そのコトがすごく悔しい。

「飯田君?」

「え?」

八木羅さんが心配そうに僕を見つめる。

この眼差し、やっぱり可愛い。

い、いや、そんなコトを考えている場合じゃない。

「あ、あぁ、ゴメン」

何だかよくわからないが、頭の中のモヤモヤが崩れていく。

「追わなきゃね」

八木羅さんが早足で出口へと向かった。




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