八木羅さんが泣きながら言う。
僕はポケットを探った。
ゴミしか入ってない。
くそっ、いつもハンケチーフを持ち歩いていれば。
今の僕は八木羅さんの涙を拭ってやるコトも出来ない。
・・・何て情けないんだ。
いや、待てよ。
指で受け止めてやればいいんじゃないか。
コレはかなりロマン溢れてるし、好感度もグングン音を立てて上がるぞ。
「八木羅さん・・・」
僕はそっと八木羅さんの涙をすくってやった。
「ゴメンね・・・」
八木羅さんは涙の量を増やし、僕に謝る。
「僕はいいんだ」
「よくないよ・・・」
「だって」
「だって・・・?」
八木羅さんのためなら・・・と言いたいトコロだけど、
こんな時に冗談はやめてとか言われそうだなぁ。
別に冗談のつもりはないんだけど。
「上佐賀って人とは、どういう関係なの?」
やってしまった。
一番触れてはいけない話題に触れてしまった。
京脳がイカれている。
「・・・・・・」
「ゴメン、変なコト聞いたね」
「ちょっと前に、お付き合いしていたの」
戦慄が走る。
それは八木羅さん、意外すぎる答えだ。
僕はそんな言葉なんか望んじゃいない。
・・・誰と誰が付き合ってたって?
「別に、変な意味じゃなくて、ね」
「ひょっとして、詩?」
「うん・・・・・・上佐賀君、詩、上手なんだ」
僕は呆気に取られた表情で地面を見た。
・・・多くの人間に恐れられてる男が、詩を作るのが上手いのか?
何だか変な話だぞ。
「でも、その人は・・・」
「この辺一帯では、一番腕が立つそうよ」
要するにそれは、僕如きが迂闊に近づくな、ってコトなのか。
「そんな人が、詩を心から好きって言うの。おかしな話でしょ?」
うん・・・と言いかけたが、言葉を呑んだ。
確かに易々と信じられないけど、何となく納得出来てしまう自分がいる。
どういうコトなんだ。
「何で・・・付き合ったの?」
それは言うな京脳。
「気がついたら付き合ってた・・・かな」
何だか曖昧だ。
「でも彼、周りの人がちょっと怖い感じでしょ?」
ちょっとどころではないけど。
「私、彼といると、よくからかわれたりしてね」
「それがイヤになったんだ?」
「うん・・・」
「・・・それにしても、萩野は一体?」
また京脳は突発的に話題を変えたがるなぁ。
「萩野君は、悪い人じゃないの」
「ん・・・・・・まぁ、そんな気もする」
「あ・・・・・・打たれた場所、痛む?」
「いや。大丈夫」
「あの人はね・・・あんなんじゃなかったんだから」
八木羅さんがヤケに悔しそうに呟く。
「全部、全部彼のせいなのよ」
その言葉は上佐賀に向けられているとみていいのか。
「萩野君は、上佐賀君の命令は絶対って言ったけれど、それは間違いじゃないの」
・・・何だか生々しい話になってきたような。
「彼はね、本当は優しいし、滅多に暴力なんてふるわないの。
仲間の為に自分の身を犠牲にするし、すごく温かい人なの」
ちょっとヤけるなぁ。
「ただ・・・・・・」
「ただ?」
「あまりにも強すぎて、その力を利用されているらしいの」
「え?」
よく飲み込めない。
その人の命令は絶対で、でも何でその人は利用されてるんだ?
京脳がエンジンを冷ましてゆく。
「誰よりも強くて、誰よりも良い人なの。
でも、そこを逆手にとられて、彼の周りで変な噂を流すコトが流行っててね」
「変な噂?」
「例えば、私が門の前で誰かに乱暴されてるとすると」
ツバを飲み込むシチュエーションだなぁ。
「彼が誰かに命令して、私を助け出すの」
「うん」
「命令された人は、上佐賀さんが強いの知ってるから、無視出来なくて・・・ね」
「んー・・・・・・」
京脳をフル回転させても、イマイチわからない点がある。
「それでね、命令させられた人は何で俺が?みたいになって、
彼の悪い噂をまいたり、何も無いのにそこに何かがあるって言って彼を行かせたり」
・・・・・・。
八木羅さん、ひょっとしてウソをついてるんじゃないか?
目の焦点も合ってるか疑問だし、どうにも上佐賀という人を庇っているようでならない。
悪い人なら悪いって言えばいいのに。
・・・それとも僕は信用されていないのだろうか。
「もう、こんな時間だね・・・」
気がつけばさっきから何時間も経っている。
「家まで送るよ」
「え?」
「途中でその彼に出会ったらマズイでしょ?」
「別に・・・・・・マズくはないけど」
「八木羅さんが心配なんだ」
京脳がぶっちゃけた。
「うん・・・アリガト」
八木羅さんがここにきて笑顔になった。
「じゃ、お言葉に甘えちゃいます」
うん、やっぱり可愛い☆(お茶目な京君の星マークだ!!)
というワケで、僕等は仲良く帰路につきました(興奮気味)