八木羅さんが立ち止まった。
「どうしたの?」
八木羅さんはかつてないほど残念そうな表情で前方を見つめる。
僕も前を見る。
「菜乎・・・」
がっしりしていて身長もそこそこ高い男が僕達を睨んでいる。
正確には八木羅さんだけを、だけど。
「どうしてここに・・・?」
八木羅さんの唇が震えている。
「その男は?」
「・・・・・・友達よ」
男は僕の瞳を玩味する。
僕は怖くて震え出した。
・・・何だ、この威圧感は。
17年人生をやってきて、今、僕こと飯田京は一番恐れを抱いている。
早く・・・早く逃げ出したい!
僕は咄嗟に視線をそらした。
「ふん・・・・・・」
笑ってくれ、視線に耐えられなくなった僕をどうぞ笑ってくれ。
だけど、家に帰らせてくれ。
そしてベッドで寝かせてくれ。
アナタの妨げになるようなコトは一切しません。
・・・京脳が確実に逃げの態勢に入っている。
「上佐賀君・・・」
驚くコトに、男の名前はかの有名な上佐賀であった。
こんな人が学校にいるのか・・・・・・。
京脳が痺れ始めた。
「お願い、もう、わがままは言わないから」
「・・・何がお願いなんだ?」
この迫力。
このプレッシャー。
僕に向けられているものではないのに、何故か一番僕がビビっている。
こころなしか股間がしめってきた。
「もう・・・・・・終わりにしてほしいの」
「・・・・・・そうか」
八木羅さんはよく対等にトークが出来るものだ。
「そのコトに関しては、別に俺はどうも思っちゃいないんだ」
「じゃあ・・・・・・」
「だがな」
上佐賀さんが僕に近づいてきた。
怖いよ、怖いよ!
「この男はなんだ?」
本当にゴメンナサイ!
そう言って走って逃げ去りたい気持ちでいっぱいです!
「ただの・・・友達」
八木羅さんもかなりまいっているようだ。
「いつからだ?」
「つい、最近、知り合ったの」
「お前が俺から逃げるようになったのもつい最近だ!!」
「違う・・・!逃げてない!」
「逃げてなかったらなんなんだ!!」
「それは・・・・・・」
熱すぎて僕には近寄れない。
萩野の時みたいに、横からちゃちゃを入れるなんて真似は出来ない。
だけど、八木羅さんの視線は僕に向いている。
僕に助けを求めている証拠だ。
・・・僕にこの男に反論しろと?
無理に決まってる。
この男の、上佐賀さんの眼は本気だ。
十分に殺意がこもっている。
ヘタをすれば、というか一歩でも動いたのなら、僕は間違いなく殺される。
・・・それでも僕を信じる気かい?
八木羅さんもわかっていたハズだ。
この男に出くわしたら最悪の事態を招くって。
僕なんかじゃどうしようもないコトも、わかってたでしょ?
確かに・・・・・・何も出来ないよ。
ただ脅えてるしか能が無いんだ。
でもね、さっき誓ったよ。
八木羅さんが心配なんだ。
八木羅さんを守りたいんだ、って。
どんな困難にでも、打ち勝たなきゃならないんだ!
京脳が静かに起動してきた。
「貴様、菜乎とはどういう関係だ?」
「ぼ、ぼぼぼ僕は・・・その」
「言え」
やっぱり無理だ。
この男、強すぎるよ。
殴られなくてもわかる。
「八木羅さんの、友達だ!」
言ってしまった。
上佐賀さん相手に言ってしまった。
彼が一番望んでいない応えを言ってしまった。
「菜乎、お前はウソをついたな」
「えっ・・・?」
「この道から帰ってきて、友達だってコトはないだろ?」
「違うよ。ホントに友達なの。ただの、友達」
この道・・・・・・?
つまり、さっき居た場所から帰ってきた、この道。
さっき居た場所?
八木羅さんの思い出のつまった場所・・・・・・。
!!!
読めた、完全に読めたぞ。
八木羅さんと上佐賀さんは付き合ってた時、よくあそこに行ってたんだ。
それで多分、恋人としか来れない特別な場所だ、って認識し合ったんだろう。
そんなトコから僕と一緒に帰ってきた。
つまり、僕の存在は"ただの友達"ではなくなってしまうワケだ。
それなら、萩野や上佐賀さんがここで待ち伏せていたのも合点がいく。
「ただの友達と、何故ここに来た・・・?」
上佐賀さんは完全にキレている。
目つきがさっきとは別格だ。
さっきのよりヤバイってコトは、もう地球が終わるかもしれないってコトだ。
アーメン・・・・・・。
「答えろ、菜乎」
空気が一気に張り詰めた。
「飯田君と上佐賀君が似てて、それで来てみただけなの・・・」
その返答は・・・まずいような。
「俺とは行きたくないと言いたいのか?」
言わんこっちゃない。
「そうよ!私、アナタなんかより飯田君の方が好きよ!」
八木羅さんが大砲を打ち上げた。